球技大会編

特訓、するってよ。

 もう嫌。もう学校行きたくない。

 そんな言葉しか出てこない私を誰か、どうにかしてくれないか。誰か、球技大会というものをこの世から消し去ってくれないか。

「何マヌケな顔してんの」

「咲っぺ……。私結構本気で悩んでるんだけど。傷ついちゃう」

「球技大会?」

 分かってらっしゃるではないか。私は首を縦に振り、重たくなった頭をテーブルに乗せた。

「快斗に教えてもらえば良いじゃん。心優、勉強教えてるクセに体育教わってないじゃんか。今回だけでも頼ったら?」

「そういう問題じゃ無いんだよぉ……」

「え? 俺じゃダメなの?」

 耳元で、話題に名が上がっていた人物の声がした。顔を上げてみると、彼は不満そうに口を尖らせていた。

「ダメとかじゃなくて。分かります? 私が居る=負け。だから、精神的にね?」

 そう、私は絶世の運動オンチ。スポーツと名のつくもので、楽しいと感じた事すらない。おかげで精神状態はこの有様。

「じゃあ、俺がその精神を叩き直そうか?」

 おおう……。君の口からそんな言葉が出せるとは思っていなかったよ。叩き直すだなんて……

「よしっ! 快斗、まず心優を連れて行くのじゃー!」

 え? 咲っぺ? 何を言って……

了解ラジャー‼︎ よしっ! 行くぞー!」

 どこにぃぃ‼︎⁉︎ 私は反論することも許されず、外へ引きずり出された。


 辿り着いたのは、庭。あまり使っていなかったのだが、そこにはバスケットコートもあるのだ。

「よし、今日からココで特訓だっ‼︎」

「待って、まだ出る競技すら決まってないんですけど」

 「決まるまでの間はを鍛える」

 そう言って快斗は拳で左胸をトントン、と叩いた。

 嫌な予感しかしない。筋トレとか、走り込みとか、絶対ヤだからね。

 ふと縁側に座っている咲っぺをみると、彼女はニコッと笑って家の奥へと消えて言った。

 待って……! 行かないでぇぇっ‼︎

 心の中で叫んでも、テレパシーが使えない限り、彼女にその声は届くはずもなかった。

「よっしゃ! じゃあ、はじめっか!」

 なにが、よっしゃ! なの。なにを始めるの。こえ〜よぉ〜……。

「じゃあ心優」

 なんじゃらほい。

「俺からボール獲ってみ」

 ……うん。……はあぁぁぁっ⁉︎

「いやいや、ムリでしょ! ど素人がバスケ部からボールを奪うだなんてっ」

 いくらなんでもそれはヒドイ。爽やかなイケメンが鬼畜に見えてきたよ。笑顔の裏の黒い影が今なら見えるぞ。

「ほら」

 彼はニヤッと笑ってドリブルを始めた。私がいつまでも動こうとしないでいると、挑発を始めた。

 なんかこいつムカつく。

 私は彼が目の前まで来たところでサッとボールに手を伸ばした。が、彼はドリブルする手を右から左へと換え、上手くかわした。

「もっとガッついていかないと」

 彼は余裕の表情でいた。鬼畜だ。マジで誰だこいつ。

 私は彼の目の前に立ち、行く手を塞ごうとしたが優雅に体を回転させてかわしていく。そうして私は、いつの間にか必死になってボールを追っていた。

 どのくらい経ったのだろうか。2人は汗だくになっていた。

「ちょっ……。休憩ください……」

 普段から全く運動をしない私は、息が上がりまくっており、疲労が蓄積していた。しかし、彼は汗をかいてはいるものの、どこか爽やかさがある。疲労という言葉を知らないような雰囲気だ。

 休憩⁉︎ 甘ったれてんじゃねー‼︎ ……位に考えていたが、彼はそこまで鬼畜ではなかった。

「いいよ。暑いし、なにか飲もうか」

「そう言うと思ってキンキンに冷えた麦茶を持ってまいりましたぞ」

 振り返ると縁側に咲っぺがお盆を持って立っていた。

「咲っぺ……! 神っ‼︎」

 私はそれだけ叫んで冷えたグラスを手に取った。

「心優」

 麦茶を一気飲みした後、彼は言った。

「ただボールを追うだけじゃ獲れないよ」

 グラスを置くと、彼はシャツをめくり上げ、額の汗を拭った。腹筋丸見え。すげー。これがシックスパットか…。セクスィーだな。ヒューヒュー

「相手の動きを先読みしないと」

 あ〜。いつものイケメン爽やかスマイルに戻ってる〜。安心。

「今度から、普段の俺の行動先読みしたら? トレーニングは継続してこそだから!」

「うん」

「今日はもうやめとこうか!」

「……なんで?」

「先読み」

「……課題?」

「と、いうことは?」

 ほ〜う。教えろってか。仕方ねーな。私はグラスに残った麦茶を飲み干し、立ち上がった。」

「じゃあ、先にシャワー浴びてきまする」

「先読みするのソッチ⁉︎」

「おっ先〜♪」

 私は駆け込むように家に入った。背後からはもう1人分の足音がする。サッサとシャワー浴びて、勉強して、小説も更新しよう。

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