何度でも蘇る黒歴史

「咲っぺ‼︎ 朝だよぉ〜〜っ‼︎」

 目覚まし時計を止めた直後、バタバタと廊下を走る音と心優の楽しそうな声が聞こえてきた。

「心優のやつ……朝から元気良いな……」

「え⁉︎ 何か言った⁉︎」

 独り言を言ったはずなのに聞こえてたらしい。彼女はノックもせずに部屋の扉を開け放った。そして次の瞬間、

「ひぁああぁぁっ‼︎‼︎ ら……裸族っ‼︎」

 彼女は突然叫び、走り去ってしまった。

 なんだ……? ナゼ赤面? ナゼ裸族? 俺何か……あ。上半裸だった。

 俺は部屋着用のTシャツを着ると、1階のリビングへと向かった。

「心優、テンション高いな」

 ダイニングテーブルのいつもの席に着き、歩に話しかけてみた。

「あぁ、アレだよ。アレ」

「アレ……?」

「心優、また雑誌で公式連載するんだって」

 歩の代わりにまっさんが答えた。

「毎回このテンションになるんだよな、こうなったら止まらないから。気にしないで時間に解決してもらうのを待つのみだよ」

 歩は溜め息混じりでそう言った。

「でも、さすが売れっ子作家だよね……」

「「「あっ」」」

 心優以外の3人が声を揃えた。

「「「それ、禁句」」」

 えっ⁉︎ どこが⁉︎

「快斗、『売れっ子作家』は禁句だから。『何が売れっ子じゃボケェェッ! テメーが代わりに書いてくれんのか? あぁ⁉︎』って感じでキレるから」

 歩はそう言って、わかったな? と目で合図を送ってきた。

 そんな恐ろしいことが起きてしまうなら従う他無い。俺は頷き、朝食を口に運んだ。

「いっただっきまーす♪ ……ん! んま〜!」

 幸い、彼女の耳に俺の言葉は届いていなかったようで、機嫌は良いままだった。

 隣に座った咲は、彼女の様子を見てセノビ○クを吹き出しかけていたが。


 ***


「おはよう」

 登校すると、教室にはまだ半分程の人しか居なかったが、大いに盛り上がっていた。

「おーっす、心優。お前、球技大会何出るか決めたか?」

 卓人は振り向くなり嫌な事を聞いてきた。

「何のことやら、さっぱりわかりませんな」

「お前なぁ……。そういえば、快斗にバスケ教わってるらしいじゃん。やっぱりバスケ出るの?」

 情報早っ‼︎ そして声でかっ‼︎ 一部の女子がこっち見てるんですけど。視線が冷た〜いっ!

「なにそれ」

 ほら、突っかかってきたーって、佑かよっ!

「サッカー出るんじゃねーのかよ。昔すみ兄に教わってて褒められてたじゃん」

「……え? そうだっけ……。全っ然覚えてない」

 この絶世の運動オンチが、褒められたとは…って、違う違う。サッカー教わってたのって、YOUでしたよね?

「俺と一緒にやってたじゃん。ほら心優、アイス奢ってもらうために……」

「ああぁぁぁっ‼︎」

 思い出したっ! アイスで釣られて1週間くらいやってたやつだ!

 すみ兄の教え方は上手くて、なんだか面白くて、褒められて少し照れ臭かった、淡い記憶……

「すみ兄って誰」

 思い出に浸る余裕さえ与えてくれずにい卓人がツッこんできた。

「サッカー部の河瀬かわせ純友すみと先輩。俺ら幼馴染みで、すみ兄で定着してんの」

 私が答えるより先に佑が解答した。早押しはやっぱり苦手っす。

「えっ。八生、そんなちっちゃい時から3Pしてたん?」

「アホッうるせーよ、エロ川っ!」

 突然関西弁で下ネタをブチ込んできたのは斜め前に座る合川あいかわ信之のぶゆき。卓人は即座に消しゴム投げつけ、彼は上手くそれを弾いた。

「エロ川とちゃうわっ! 合川や!」

「あ。ごめん。じゃあ、エロゆき」

「うん、信之な!」

「知るか」

「はっ⁉︎ たくてぃー、ひどぉーい」

「キモイ」

 エロ川君と卓人は、咲っぺの席を挟んでずっと言い合いをしている。もう、慣れた。いや、慣れちゃダメなんだけど。

「エロ川君、咲っぺが来たら張っ倒されるよ。もうやめたら、」

「八生までそのアダ名で呼ぶとか⁉︎ みんなして俺のことイジメて、そんなにおもろいかっ!」

 彼はそう言って両手で顔を覆い、泣き……マネを始めた。口元緩んでるの丸見えだよ。

「球技大会って1人2競技は出なきゃダメだろ? 去年何出たんだよ」

 佑はエロ川君を無視して問うてきた。

「それ、聞かないでよぉ〜!」

「あははっ心優、精神状態ヤバかったよな」

 やめろ卓人。私の黒歴史に触れるなっ! 傷をえぐるなっ!

「幼馴染みなんだから教えてやれって」

「それ関係無くない⁉︎」

「なくない」

 おい、佑。お前いつからSに目覚めた。

「仕方ない」

 卓人はそう言って私の黒歴史を掘り起こした。

「こいつな、去年バレーとサッカー出て、バレーでレシーブしようとしたはずなのにヘディングしてるし、サッカーは味方にボールじゃなくて足蹴られててさ〜。試合後のあの顔ったら……!」

 そう言って彼は腹を抱え、机をバンバン叩いて笑い始めた。

 私が奴をシメようと拳を握った時、佑の冷静な視線によって止められた。

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