試合

 土曜日。

 咲っぺと歩を連れて、私は神尾総合体育館に向かっていた。

「集合時間10時って……早すぎじゃない? 私もっと寝てたかったぁ〜」

 咲っぺは隣でボヤいている。そんな事言って、誰よりも早起きしてたじゃないか。私はフッと笑った。


 総合体育館に着くと、入り口の所に快斗が立っていた。

「時間ピッタリ! おめでとう! 1番良い特等席ゲット!」

 彼は嬉しそうに笑い、私達を奥へと案内した。

 大きな扉を開くと、部員達が練習しているようだった。

「……これ、当分始まりそうにないな。」

「バスケ部の試合直前練習なんて、そうそう観れるもんじゃないぞ。ま、楽しんでってね。俺、そろそろ練習戻んなきゃだから。」

 そう言って、彼はコートに向かって行った。私達は、その場で呆然と立ち尽くしていた。

「これの何を観て楽しむの?」

 私が咲っぺに問うと、彼女は答えた。

「バスケ部って、ウチの学校のどの部活よりも人気あるじゃない? で、今年はイケメン勢ぞろいってワケだし、バスケ部員のモチベーション上がってるみたいなの。バスケ部ってだけで誇りなんだよ。彼らには」

 そうなのか……? 確かに、イケメンはいっぱい居るけど……

 私はイケメン同士がイチャイチャしてるとこが見たいんだけどっ‼︎

 皆ボールに夢中じゃない! 私はそんなのには萌えない!

「心優、鼻息荒いよ」

「え⁉︎ あ、ごめん歩」

 アカン、アカン。腐った事を今は考えてはならんのだ。しっかりしろ! 私!

 私は頭を抱えて俯いた。

 その時、目の前に突然圧迫感を感じた。

 顔を上げると、高身長なイケメンが目の前に立っていた。

「あ、望先輩じゃないですか。いつも兄がお世話になっております」

 咲っぺはそう言ってぺこりと頭を下げた。

 え? これが噂の望先輩? マジで? 流石身長185センチ。でっか。

「君達、快斗が誘ったっていう子達だよね? 君達の席は、あそこの1番前だから。快斗がいてくれて、本当に良かったね。試合、楽しんでってね」

 うっわー。爽やか。汗が滴るあのカンジ。もう1人イイ感じの人がいれば妄想の準備は完璧に……。

「心優、行くよ」

 名前を呼ばれて振り返ると、咲っぺ達は席に向かって行こうとしていた。

 置いてかないでくれ。

 私は慌てて彼女達を追いかけた。



 観客席が、全て埋まった。もうすぐで試合が始まる。

 チームは互いに向かい合って一列に並んでいる。

 ピーッと電子ホイッスルの音が体育館に響き渡る。試合が始まった。

 私達は、最前列で、1番良い席から、背番号の上に『神尾高校』と書かれた人達を目で追っていた。

 ボールを巧みに操り、見事にゴールへと叩き込んでいくその姿に私達は唖然と見ていただけだった。

 あ。快斗。

 彼の手にボールがやって来た。彼はニヤリと口元を緩め、物凄いスピードで人の間をすり抜けていった。そして-

 入った。スリーポイント。

 なんだか、カッコ良いかも。

 私は夢中になってゲームが進んでいくのを観ていた。

 快斗はその後何度も得点を入れ、最終的には、神尾高校の勝利に。

 これが、快斗エースの力か……。

 私達は、心から彼らに拍手を送った。


 ***


 ゲームが終わり、心優達が満足そうに帰って行くのが見えた。

 感想は後で聞こう、と心の中で呟き、彼はミーティングに参加した。

 試合に勝ったので、今回のミーティングはそれ程長いものではなかった。

 快斗はさっさと帰ろうとすると、望先輩に声をかけられた。

「快斗が試合に友達誘うなんて、珍しいな。あの2人のどっちか、好きなのか?」

「やめてくださいよぉ」

「ははっごめんごめん。いや、俺さ、一目惚れしちゃったんだ」

「……え?」

「ほら、キタの妹じゃない方のコ」

「……心優のこと、ですか?」

 先輩の言葉を聞いた時、快斗の中で何かがざわめいた。

 そして、彼自身も気付かないくらい心の奥で呟いた奴がいた。

「……聞きたくなかったな」

 と。

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