ご挨拶をしましょうか。

 快斗エースの後ろについて教室へと向かう途中、咲っぺに会った。

「心優〜‼︎ 同じクラスだねっ‼︎」

 彼女と㊗︎再会&同じクラスのハグを交わした。やっぱり咲っぺは可愛い。癒し系だ。

「歩の予想、当たっちゃったね」

「ね〜。歩スゴイ」

「そこ⁉︎」

 3人は教室に着いてからも集まって会話を楽しんでいた。そこへ、見覚えのある男子がやって来た。

「快斗! 同じクラスだな‼︎」

「おお‼︎ よっしー‼︎」

 よっしーとは、三芳みよし卓人たくとのこと。ちなみにバスケ部。彼とは、1年の時に同じクラスだった。

 なぜか良く会話を楽しむようになり、いつの間にか仲良くなっていた人物だ。

「おっ。八生、今年もよろしくな‼︎課題、また見せてな!」

「いやですぅ〜課題くらい自分でやって来てくださいな」

「ケ〜チ!」

「ケチじゃありません〜。正論言ってるだけだもん」

 私と卓人はそうやって言い合いをしている事が多い。ほぼ日課だ。

「そういえばさ、よっしー、八生がさ〜バスケの試合、特等席で観れるっていうのに来ないって言うんだぜ。何とか言ってやってよぉ〜」

 え。勧誘諦めたのかと思ってたのに。

「え⁉︎ 八生、お前正気か? 特等席だぞ! あっ‼︎ キタセンパイも間近で見れるんだぞ! こんなチャンス滅多に無いじゃん‼︎」

 知らねーよ。いらねーよ。興味ねーよ。

「そんな奴いつでも間近で見れるわ」

 そう口を挟んだのは咲っぺだった。

「あ、そっか。咲っぺのお兄さんだったっけ」

「うん」

 北野きたの将太しょうたさん、彼は咲っぺのお兄さんであり、バスケ部の副部長である。無口で、周りからは“クールビューティ”と言われている。

「今年の代は特にイケメン勢ぞろいなワケだし? それを特等席で観れるってのはかなり価値あるぞ〜」

 彼らの勧誘は止まらない。

「来なきゃ損するぞ〜‼︎」

「一生後悔するぞぉ〜」

 咲っぺの方を伺うと、彼女は、仕方ない、とでも言うように頷いた。

 確かに、この勧誘は首を縦に振るまで続くに違いない。快斗エースのそういう所は昨日の時点で把握済みだ。

「……わかった。行くよ。咲っぺと歩も連れてくから、3人分お願いね」

「了解!」

 快斗エースがそう言った時だった。佑が教室に入って来たのが見えた。

「……ん? あいつ、誰? ……イケメンじゃん‼︎」

「よっしー、そこに食いつくなよ」

「いや、だってイケメンじゃない?」

「そうだけど……」

 快斗エースは卓人の言葉に少々呆れ気味だ。

「あれ、心優の幼馴染でしょ?」

「えっ。咲、知ってるの?」

 咲っぺのその声に卓人が反応した。

「うん。あの人、歩の双子だよ」

「あ〜。だから似てるのか」

 快斗エースはそう言って納得している様子だった。

 しかし私は会話に参戦せず、佑を目で追いかけていた。なんだか、放っておけない、というか……

「視線が熱いね〜」

 突然、耳元で卓人の声が聞こえた。勢いよく振り返ると、彼はニヤリと笑っていた。

「恋ですか?」

 卓人よ、あんた、私がヲタだって事知ってるくせに……!

「んなこと、あるワケ無いじゃん‼︎まず、私が好きななんて作ると思う?」

「「あぁ、そっか」」

 あれ。納得しちゃってるよ。卓人と咲っぺ。私、地味に傷付いたかも。自分で言ったけど傷ついちゃったよ?

「じゃあ、なんでそんなに気にしてんだよ。何かあったとか?」

 快斗エースはそう聞いてきた。話をわかってくれてるんだか、わかってないんだか……。

「うーん、幼馴染で長い事ことずっと仲良くしてたのに、中学の時、周りが冷やかしてきたの。『お前ら、付き合ってるんだろ?』って。佑は、それが嫌だったみたい。それからかな、疎遠になっていっちゃって……」

 私はそう説明した。

「そっか……。でも、今は別に平気なんじゃないの?」

 快斗エースはそう言って私を励まそうとしてくれた。

「うん……」

 私は、なるべく彼に迷惑をかけないようにと、笑顔を見せた。

 その時だった。

「心優、」

 佑が私の名前を呼び、近づいて来た。

「……? どうしたの? 佑」

「いや、その……」

 彼は、首の後ろに手を回し、恥ずかしそうに言った。

「よろしく」

 その時、私の中に何かビリビリとした電気のようなものが走った。なんだか、心が熱い。久しぶりに佑とマトモに話せた。それが嬉しかったんだ。

「うん。よろしく!」

 私は、彼に笑顔で返した。彼は、小さく頷き、その場を後にした。

「ほほ〜う、全然疎遠じゃないじゃ〜ん。じ・つ・は……何てこと有ったりしてぇ‼︎」

「咲っぺ‼︎」

「はい。ごめんなさーい」

 咲っぺは口を尖がらせて言った。うわぁ……可愛ええ……

「おい。心優、咲に萌えてんじゃねーよ! 家に帰ってからにしろ‼︎」

 卓人のツッコミが入ってきて、私は我に返った。

「つーかさ、よっしー、八生とは去年同じクラスだったんだろ? 北野は?」

「私も同じクラスだったよーん」

「うわ。俺、ボッチじゃん」

「そだね」

「心優、ひでー」

 いえ。本音が溢れただけです。

「ぶえっくしっ‼︎」

 卓人のくしゃみと同時に、チャイムが鳴った。たくてぃー、グッドタイミングです。


 出席順に並べられたこの席順。周りに話せる人が居ないというこの環境。駄目だ。生きていけない。咲っぺの隣には佑が居るものの、彼女にとっては話した事もない人物だ。完全に硬直していた。しかし、快斗エースと卓人は美山、三芳、と前後になっている。くそっ。

 このボッチ感はなんだ。この敗北感はなんだ……!

 しかし、神は舞い降りた。

 2-B最初のHRだというのに、担任のお爺ちゃん先生が席替えをすると言ったのだ。彼は見かけによらず、破茶滅茶な人で、一部の生徒達からは“ハチャメッT”などと呼ばれていたりする大半の人は“おじじ”と呼んでいるが。

 おじじは机の下から立方体の箱を出して言った。

「クジで決めようか。テキトーに座席に番号をふっていくから、その番号の場所が君らの席だ。ほい、出席番号1番から引いていきなさい」

 その言葉に、嬉しそうに教壇に向かっていく生徒達。どうせ私は余り物を引くんだ。私の後ろには、たったの2人だけ。

 後ろに座った2人の左胸につけられた、記名章を見ると「湯川」「若林」と刻まれていた。ほうほう。これは…。まだ希望はあるかも知れない。

 と、私が前に向き直った時だった。

「あ。24だ。よっしゃ‼︎ 1番後ろ! しかも窓側〜!」

 快斗エースの嬉しそうな声が教室に響いた。すると、女子の間で『絶対に隣とってやる!』だの、『チャンス!』だのと、闘争心が燃えていた。

 もちろん、私にはどうでもいい話だ。

 私は、軽く深呼吸をして教壇に向かった。残念ながら今のところ、快斗エースの隣は決まっていないようだ。

 ま、別に私には関係な……

 あれ。私が引いたクジには『7』という数字が。と、いう事は……?

 私は黒板に書かれた座席表を見た。

「嘘でしょ……」

 7番の隣には、24の数字がある。

 今朝の壁ドン……いや、昨日の『一緒に登校しよう』発言から、フラグが立っていたようだ。


 なんでこうなるっ……‼︎⁉︎⁇

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