前期
始業式。goodなmorning
ベッドの枕元に置いてある目覚し時計が大音量で私を叩き起こす。
私はもそもそと起き上がり、ボサボサの頭を掻き、部屋のドアを開ける。
今日はのんびり出来ない。
今日は始業式なのだから。しかも、そんな日に限って食事担当。尚更早起きしなければならない。
私は無造作に髪を束ね、冷蔵庫から食材を出す。時計は6時を指していた。
全員が食卓を囲んだのは6時。
「……始業式かぁ」
咲っぺは溜息混じりにそう言った。
「全員同じクラスになれたらいいね〜」
「その確率は極めて低いだろ。何となく、俺だけ違うクラスになりそう……」
「歩、朝っぱらから縁起でもない事言うな! 希望を持て‼︎」
私はガッツポーズをして見せた。
朝食を終え、支度を済ませると、
咲っぺと歩は朝練のため先に出てしまった。
「早く! 行こう‼︎」
「そこまで急がなくてもちゃんと電車乗れるから」
「……そっか」
「いってきまーす」
「まーす」
私達は共に家を出て、駅へと向かった。
しかし!
何話せば良いんだよぉ〜。歩なら話慣れてるからポンポン話題出てくるけど、きっと
「そういえばさ、八生って、何か部活入ってるんだっけ?」
わあ、3次元トークあった……
「え⁉︎ あ、ううん。帰宅部」
家では小説の執筆という名の部活的な事やってるけどな。
「そっか……。じゃあ、家帰ったらずっと勉強してるの?」
それは流石にやってらんねーだろ。
「いや、基本PCいじってる。勉強は何もやる事無い時くらいかな?」
「それで学年トップ獲れんだ。すげーな。脳の構造が違うのかな」
んな事あるかよ。宇宙人かよ。
「いや、きっと、エー……じゃない、美山君も自分に合った勉強法見つけられたら成績良くなるよ」
おっと、危なく『エース』と呼んでしまうところだった……。脳内では歩のように『快斗』とか呼べるはずもなく、勝手に『エース』と呼んでいる……なんて知られた日にゃ、一生彼と顔も合わせられない。
「じゃあさ、授業始まったら毎日補習してよ」
「うん。……。はぁ⁉︎」
驚きのあまり、彼の顔を見ると同時に叫んでしまった。
「良いじゃん! その代わり体育教えるからっ‼︎」
彼は顔の前で両手を合わせ、必死さを伝えようと頑張っていた。
「昨日もそれ言ってた……」
おっと。思わず言葉が零れてしまった。
「ん〜っ。じゃあ、今度バスケの試合を特等席で見られるっていうのは⁉︎ ほら、間近で
何でそうなるんだよ。バスケとかルール自体あんまり知らないよ。
「え……。望センパイって……?」
「ほら、
ええと……。あぁ、あの人も確か周りからキャアキャア言われてたな。身長185センチとかいう、バカでかい人。
「でも私……」
そう言いかけた時、電車が来る、と注意を促すアナウンスが私の声を遮った。
いつの間にか駅に着いていたらしい。会話を成立させる為に必死になっていたおかげで全然気づかなかった。
ホームに電車が止まり、私達はそれに乗った。しかし、さすが通勤通学ラッシュ。電車はほぼ満員。私達はドアのすぐ近くに立つ事しかできなかった。
「で?『でも』何? バスケ、興味無い?」
電車が動き出すと、目の前に立つ美少年が話しかけてきた。
「いや……。別にそういう訳じゃないんだけど……。何というか……」
「まあ、一応特等席はとっておくからさ、来るだけ来てよ」
「いや、私、別に望センパイには興味無い……」
むしろフクロウとか猛禽類に興味が……。
その時だった。
ドン、と右の耳元で鈍い音が聞こえた。
なんだろう、と音のした方を見ると、私がよしかかっている壁に向かって程よく筋肉の付いた腕が伸びていた。この腕の持ち主は誰だろうと、視線を正面に向けると、目の前には
「……っっっ‼︎‼︎⁉︎」
危うく叫ぶところだった。何よりも近い。顔が近い‼︎ 離れてくれぇぇぇ‼︎‼︎
動揺していると、興奮気味の少女の声が聞こえてきた。
「見て! さっちゃん、あの人壁ドンされてる‼︎」
「ホントだ! 壁ドンしてる男の人イケメンじゃん! 羨ましいね〜、あっちゃん!」
つり革に並んで捕まっている彼女達の瞳には私達の姿が映っているようだ。
羨ましいとか言ってるなら、代わってくれ‼︎ さっちゃん、あっちゃんコンビ‼︎(誰か知らないけど。)この状況をどうにかしてくれぇっ‼︎
「ちょっ……美山君……? あの、どけてくださらない? あの、恥かし……」
私は思い切って彼をどかそうと試みたが、無念にも失敗に終わった。
「ごめん。でもムリ。脚……つった……」
なんでええぇぇぇ‼︎‼︎‼︎⁉︎⁇ なんで電車の中で脚つるんだよっ! そんな要素1つも無いでしょ‼︎
「……ホントにごめん」
彼は申し訳無さそうに下を向いた。
「……。いいよ」
私は止むを得ず、彼を許してあげた。早く治ってくれ、と願いながら。
学校に着く頃、私は既に体力を使い果たしていた。
朝から壁ドンって……。あの状態が10分以上続くとなると、マジでキツイ。彼の脚が治ってからも壁ドンから解放されなかったのは、彼の背後に居た太ったオバさんのせいだ。オバさんはデカい尻で
だから、文句は言えなかった。
「あ、クラス発表、張り出されてるよ。行こう」
彼は校門の前から掲示板へと駆け寄っていった。
「え⁉︎ あぁ、うん……」
私も掲示板に駆け寄り、自分の名前を探した。
あった。2-Bだ。
えーと、クラスメートは……。
「あっ‼︎
と
咲っぺとも同じクラスだ。歩は2-E。彼の予感的中。
「あ」
思わず声が漏れた。歩の代わりに
「あっ、いた!」
私は彼の元に駆け寄り、背後から彼の背中を軽く叩いた。彼はビクッと肩を震わせて振り返り、固まった。
「同じクラスだねっ!」
「……。おう」
彼は右手を首の後ろに回して言った。いわゆる、イケメンポーズ。小さい頃からの彼のクセだ。主に緊張したり、恥ずかしがっている時によくやる仕草だ。
それにしても……。目も合わせないぞ、コイツ。
「よろしくね‼︎」
私は昔のままを意識して笑った。
「おう」
そっけない。お前は『おう』しか言えないのかっ‼︎
「おい、八生。置いてくぞ」
いつの間にか
「わっ、ごめん、ごめん! じゃあね、佑、あとでね!」
私はそう言い残して前を歩く彼の元へ向かった。
***
「……なんだアイツ。馴れ馴れしくしやがって…。心優の奴だって……楽しそうにしやがって……」
心優が快斗に追いついた時、佑は舌打ちをしてそう呟き、よく連む友達の元に向かった。
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