春休み最終日、爆弾発言。

 快斗エースが「おたく」に引っ越して来てから、3日。そして、春休み最終日。

 昨日までの2日間、引っ越しの作業ばかりでじっくりと話す機会が無かった。おかげさまで、私達の性質オタクは彼に知られていない。

 しかし! 今日、その日がやって来た。


「やっと終わった〜‼︎」

 快斗エースはのびをしながら、階段を降りてきた。どうやら、荷解きが終わったようだ。

「おつかれ〜」

 歩は読んでいた雑誌から顔を上げ、彼に向かって微笑んだ。いつの間に仲良くなったのだろうか。

「お昼ご飯、今出来たよ」

 咲っぺはキッチンから顔を覗かせ、私達に食事の準備を促した。

「あれ、まっさんは?」

「あれ、快斗、言わなかったっけ?今日まっさん、買い物に行くとか言って朝早くに出てったんだよ」

「何買いに行ったんだろ」

 歩と快斗エースは会話しながらダイニングテーブルの上を片付けている。私は咲っぺの方へ行き、声をひそめて言った。

「今、言う?」

「今しかない!」

「じゃあ、さりげなく会話をそっちに持っていこう」

「ラジャー」

 2人は頷き、食器や食材をテーブルに運んだ。


「「「「いただきまーす」」」」

 私たちは、一斉に箸を手に取り、料理を口に運んだ。

「……そういえばさ、皆は何か好きなものとかあるの?」

 あ。咲っぺが言う前に快斗エースが言ってしまった。

「俺は、文房具好きなんだ。後で俺の部屋来ていいよ。文房具めっちゃ有るから」

 歩はサラッと流れるように言った。

「わ、私は、鳥が好きなんだ〜」

 うあぁぁ〜。わざとらしさ満載だ……。我ながら、自身の演技力に呆れる。

「私はね……」

 咲っぺが箸を置きながら口を開いた。あ、遂に言うのね。言ってしまうのね……。咲っぺ〜‼︎

 咲っぺは深呼吸し、右手の人差し指を立て、サッと挙げた。

「私は二次元が好きっ‼︎」

 咲っぺの目はキラキラと光り輝いている。私と歩は、心の中で手を合わせてから、快斗エースの方へと視線を向けた。

 快斗エースは、一瞬固まったが、ぎこちない笑顔で、そうなんだ……、と言った。

 ごめんっ‼︎ 咲っぺ‼︎ やっぱ隠しておいた方が良かった……! ごめん‼︎

「か……快斗は?」

 と歩は彼の気を逸らそうと試みた。

「あぁ、俺? 俺は、バスケが好き。あ、運動全般?」

 うわあ……。運動オンチの私にとっては全く理解不能な世界観……。羨ましいくらい……。

「え⁉︎ 八生って運動苦手なの⁉︎」

 ん……? なんで快斗こいつ、私のこころ読んでんだ?

「心優、声に出てたよ」

 と隣に座った咲っぺが耳元で囁いた。

「え⁉︎ あ、声に……出て……た……?」

「うん。八生って、意外とおもしれーなー」

 快斗エースは眩しい笑顔で言った。

「今度、体育で苦手なトコあったら教えてやるよ。その代わり、勉強教えてな」

「え、あ……。ありがとう、」

「よしっ‼︎ 私もう片付け始めるから、食器持って来て!」

 咲っぺは私の動揺っぷりを見て、話題を強引に替えた。

 私は食器を持って行くついでに彼女の耳元で礼を言うと、彼女は耳まで赤くして、Your welcome! と発音良く言って笑って見せた。


 私は、入浴までの間、フクロウのステッカーにまみれたPCを開き、常連サイトにログインした。

 私は、ネット上で話題となっている小説家でもある。その名は『OWL』

 フォロワー数は今尚増え続けている。

 掲示板にアクセスし、読者からのメッセージを読むのがこの時間の日課。

『OWLさんの小説、最高‼︎』

『OWLワールドに引き込まれる(*^^*)』

 等など。

「ふふふ……」と気味の悪い笑みが零れる。しかし、これは自分でも止められない。だって、嬉しすぎるから。

 しかし、次のメッセージを読み、笑みが消えた。

『OWLさんの恋愛小説読みたい(´-`)』

『OWLさん恋愛系書いて‼︎』

 うわあ……うわわわわわ……。無理だよ。マジで無理。恋愛経験0だから書けねーよ。ゴメンなさい。ホントにゴメンなさい……。

「何がゴメンなの?」

「○*€〒▲〆×♧‼︎‼︎」

「……え?」

 言葉ではないものを叫び、慌ててPCを閉じ、ヒーヒー言っている私を見て唖然としている声の主は快斗エースだった。

「……何か、イケナイ事を聞いちゃった?だとしたら、ごめん……」

「いや……いい……良いのだよ……。で、何か用ですか?」

「あぁ、あのさ……明日、一緒に学校行かない? 俺、ココから駅までの道わかんないし、歩も咲も朝練あって一緒に行けないらしいから……。ね? お願いっ‼︎」

 イッショニガッコウニイク……? 何語? あ、日本語だ。え? 一緒ニ学校ニ行ク……一緒に学校に行く⁉︎ は? え? 何を言って……。

 顔を上げると、首を傾げ、捨てられた仔犬のような目で私を見つめる快斗エースの姿があった。

「……ダメ?」

「う、うわあ、わはは……」

 この状況からして、快斗こいつはうんと首を縦に振るまで出て行かないつもりだな。

「わ、わかった……。その代り、寝坊しないでよ」

「ありがとうっ‼︎」

 快斗エースは、目を輝かせて私の手を握り、ルンルンとしながら部屋を出て行った。


 その時、私は知らなかった。

 まさかあんな事が起きるとは……。

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