引っ越してきたリア充。

 その日の朝は早かった。

 なぜなら、今日は美山快斗が引っ越してくる日だからだ。私達は彼の引っ越し作業を手伝うことになっている。しかし、その為に早起きしたのではなかった。

「おはようでござる。皆の衆、今日は大切な戦の日だ。気合い入れていくぞ‼︎」

 咲っぺの(正直、超変な感じの)将軍っぽい芝居に、私達は「おー!」と応えた。咲っぺは満足そうに頷き、席に着き、言った。

「えー。本日、最初の議題はこちら」

『オタグッズを何処に隠すか』

「うわー。考えてなかったー。難しいなー。え。ほんとにどうしよう」

 いや、まっさんはカメラコレクターなだけだから別に私達は良いんだけど。つーか、髪切ったはずなのにやっぱり長髪、口ひげは変わらないのね。唯一変わったとしたら、髪がボサボサじゃないこと…? まっさんって、ホントわかんない。謎。

「ホントにどうするの? クローゼットとか開けられちゃった時とか」

「いやいや。そんな非常識なことはしないだろ。それに、女子のクローゼット開けたら、変態呼ばわりされるに決まってんじゃん」

「そっか。じゃあ、平気だ」

「では、グッズ類は各自のクローゼットに封印。ということで」

「うぃす」

「ラジャー」

 私の言葉に2人は頷き、まっさんも静かに首を縦に振った。

「では、次の議題へ」

 私が声を掛けると、まっさんが口を開いた。

『彼の部屋を何処にするか』

「……え? まっさん、決めてなかったの⁉︎」

「うん。せっかく3部屋も空きがあるわけだし……。快斗クンが好きな部屋を提供してあげたいから……」

 快斗⁉︎ やっぱりそっち系か〜。まっさん。

「まっさん、別に俺の部屋の隣で良くない?」

 私達は歩の言葉に頷いた。

 二階は基本子供のみの使用となっている。階段を上がり、右側に御手洗があり、左側に進むと、順に、空き部屋、歩部屋、空き部屋。歩部屋の向かいには咲部屋、私の部屋。トイレ側にも一室あり、そこは和室になっていて、私達はそこで集まって勉強会を開いたり、遊んだりしている。歩部屋よりも手前の空き部屋は、ゲストルーム的な使われ方がされている。その為、歩部屋の奥が快斗の部屋になるのが自然だと思う。

「うーん。じゃあ、そうしようか」

 まっさんはやや不満そうにしていたが、ハッキリと言わないので無視しておこう。

「次の議題は?」

「「「……。」」」

「無いの?」

「「「ないっすね」」」

「……じゃあ、作戦会議は、終了という事でヨロシイですねっ! 解散っ‼︎」

 私の呼びかけに、皆はそれぞれの部屋へと姿を消した。勿論、私も。


 私は自分の部屋を見て溜息を吐いた。360度何処を見てもグッズ、グッズ、グッズ……。鳥のポスターとかはまだ良いとしよう。アニメのポスターとか、フィギュアとか、BLの本とかはどうにかしなければ……。BLはヤバイよね……見つかったら1番ダメなやつだよね……。

 そこで私は、BL系を優先的にクローゼットの中に押し込んだ。


 お昼過ぎ、快斗エースがおたくに到着した。彼は歩に案内され、自分の部屋の位置と内装を確認していた。彼は嬉しそうに笑顔で歩と何かを話していた。

 その時、私はどこでその様子を見ていたかというと、和室からだ。そこで私と咲っぺは作戦内容を確認しあっていた。

 ピーンポーン……

 家中にチャイムが鳴り響いた。

「来た!」

 と快斗エースは控えめに叫び、駆け出して行った。引っ越し業者が来たらしい。


 さあ、これから本格的に、このリア充と共に生活する日々が始まる


 私は両頬をパシッと叩き、気合を入れた。隣では、咲っぺが緊張した様子で唇を噛んでいた。

 歩は私達に声をかけ、一階へと降りて行った。

 2人は彼に習うようにして階段を一段、一段、しっかりと踏み締めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る