夕飯は。
議題『オタクをさらけ出すべきか』
「あの感じからして、全てを受け入れてくれそうな雰囲気ですね。私は別にいいと思います」
咲っぺは右手を真っ直ぐに上にあげて言った。
「でも、初対面だからそういう雰囲気だった可能性だってある。もう少し慎重に行った方が良いかと」
歩は顔の前で手を組んで言った。
「そうだね……。2人の意見、どちらも共感できる。そこで、だ」
私の言葉に2人は身を乗り出した。
「私達には二次元以外にも掛け持ちしている『オタク』がある。まずそちらをさらけ出してはどうだろうか?」
「なるほど……。心優は鳥、俺は文房具、でも、咲は二次元一筋じゃないか。咲はどうするんだ?」
「私は別に二次元一筋なのは恥じない。そうだ。こうしたらどう?」
咲っぺは右手の人差し指を立てて作戦を説明した。
① まず、心優と歩が鳥オタ、文具オタをさらけ出す。
② 次に私の二次元Loveをさらけ出す。
③ ②の時の快斗の反応を見て2人が二次元も…っていうのを告白する。
「なるほど……。でも咲っぺ、仮に咲っぺが告白した時に快斗がドン引きしたら、咲っぺだけが犠牲に……」
「いや。良いんだ。私はそれほどあいつと仲良くなりたいと思っているわけではないのでな」
「え。でもさっき笑ってたじゃん。超人見知りのくせに」
「甘ーい‼︎ 歩、これは社交辞令だよ。私は人見知りを克服する為に社交辞令という
「おめでとう咲っぺ。成長したな」
「あったりめーよ。いつまでも人の後ろでモジモジなんて社会に出てから困りますから」
「でも、咲っぺ、快斗と気まずくなったりしない?」
「それは……。わかんないけど。三次元男子には興味ないから別に気まずくなっても私は構わない。でも、私は二次元一筋っていうのを認めてもらう為に努力します!」
咲っぺは敬礼をし、笑って見せた。
「……じゃあ、この作戦にしますか?」
「さんせーしまーす‼︎」
「俺も」
「よしっ‼︎ 決議致しましたので、作戦会議終わり! 夕飯作るぞ〜‼︎」
私は拳を挙げて呼びかけた。
「うしっ‼︎ 今日はハンバーグにするぞ!」
歩は張り切って袖をまくった。
「歩特製ハンバーグ……‼︎ デミグラスソースにしてね‼︎」
「おう‼︎ 作戦成功を願って、飛び切りうめーもん作ってやらー!」
彼は嬉しそうに冷蔵庫から材料を取り出し始めた。
「あっ。ヤバ。今日、私が洗濯したんだった。まだ干してない‼︎ 臭くなる前に干してくるぅ‼︎」
彼女は慌てて脱衣場に向かって行った。
「あいつ……」
歩は呆れた顔で材料をボウルの中で混ぜている。その呆れた顔は口元が緩んでいた。
「歩ってさ〜。分かりやすいよね」
「何が?」
「わかってるくせに」
私の言葉に歩は、バレたか、と言って笑った。
わかりますよ。かれこれ16年の付き合いだもの。歩が咲っぺの事を「可愛い奴」だと思ってることくらい。でもそれは恋ではないってことも。妹感覚だって事も。
「つーかさ、歩って女子力高めだよね。なんていうか……」
「ぎやあぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」
私が言いかけた時、脱衣場から咲っぺの叫び声が聞こえてきた。
「え……? 今の何?」
歩が手を止めると同時に咲っぺがドタドタと走って来た。
「ど、どうしよ……!」
「なに? Gでも出たか?」
「違う‼︎ 爪割れた……‼︎ ささくれ剥けた……‼︎ ……痛い‼︎」
「なんだ」
「なんだじゃないよぉ‼︎ ねぇ、爪切りとか絆創膏とかない?」
咲っぺは大袈裟にも、今にも泣きそうな顔をしていた。歩はふっと軽く息を吐き、彼女に言った。
「俺のポケットの中に一式あるから。それ使っていいよ」
「……ポケットって、どこ?」
「尻ポケット」
歩は当たり前のように言った。
「し…! 私ゃ、歩のケツなんて触りたくないよ‼︎」
「俺だって人にケツ触られるなんて嫌だよ! でも今の俺の状況を見ろ! 肉混ぜてて手ぇギトギトなんだよ‼︎」
歩の言葉に咲っぺはブスくれた表情で彼の背後に回った。右ね、と言われて彼女は右のポケットから平たい箱を取り出した。
「……あったかい」
「うるせー! あっためておいたんだから感謝しろよな!」
「どーもありがとーございましたー」
彼女は棒読みで礼を言って私の隣に座った。箱を開けると、そこには絆創膏、爪切り、ガーゼ、綿棒、消毒液、軟膏、テーピング用のテープまで入っていた。これは普通の人なら無いと思う。すげーな、と改めて思う。
「歩って女子力高いね〜。私よりも女子じゃん」
「いや、ここまでだと、幼稚園の先生レベルだと思うけど。咲っぺ」
「なんで?」
「だってさ、幼稚園の先生が着てるエプロンのポケットってさ、凄い色んなもの入ってるじゃん」
「ドラ○もんの四次元ポケット的な?」
「そう‼︎」
私と咲っぺはいつの間にか脱線して行き、四次元ポケットがいかに便利かを語っていた。
歩がハンバーグ用のデミグラスソースを作り始めた。
咲っぺは洗濯物を干しに再び脱衣場へと戻って行った。
「ねー。なんで歩はそんなに用意が良いワケ? なんかあったっけ」
「なんかって程じゃねーけど。心優はガキん時から鈍臭かったからよぉ、よく、転んだだの、切っただの、鼻血だの色々面倒臭かった。もう、半ばヤケクソで持ち歩いてた。そしたらいつの間にか癖になってた」
だからこうなったのは心優のせい、とでも言いたそうに私の顔をじっと見つめた。
「歩がどう頑張っても心優が鈍臭いのを直そうとしないと意味無いって、
佑。久しぶりに聞いた名前だ。彼は歩の双子の兄であり、私の大切な幼馴染の1人だ。
「そーいえば、佑は今何処に住んでるんだっけ」
「あいつはアパートで1人暮らし」
佑とは、中学の時からあまり話さなくなってしまった。原因は、アレだ。
『お前ら付き合ってんだろ? ヒューヒュー!』
みたいな。佑は思春期真っ盛りだったから、恥ずかしがって私とあまり話さなくなっていき、今では互いの近況についてもあまり知らない。同じ高校に進学しても、クラスは同じになるはずもなく、校内ですれ違う事も少なかった。もしかすると、彼は私を避けていたのでは無いか、と思う程。
はぁ、と思わずため息が溢れる。
「歩……。佑にとって、私の存在は迷惑だったのかなぁ……」
「珍しく弱気だな。そんな迷惑だなんて、あるワケ無いじゃん」
「……そっか」
見た目はあんなにそっくりなのに、私に対する態度は正反対。どこで踏み外したのだろうか。
「咲ぃ‼︎ 焼けたぞ!」
歩は脱衣場に向かって叫んだ。
「はいさー‼︎」
と掛け声と共に咲っぺは走ってきた。
「ただいまー」
まっさんも帰ってきた。特製ハンバーグを早速頂きますか。私達は箸をとった。
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