第7話
ユニットに戻ろうとした瞬間、誰かの気配がした。こんなスラム近くの駐車場に止めているのは俺くらいで、俺のユニットのほかには何も止まっていない。
しかし、誰かいることは確実。あまり遮蔽物のないこの周辺に隠れているのかもしれない。心拍数が急激に上昇する。身をかがめ、XM-31が入った袋に手をかける。
その時、腕輪のディスプレイの画像が乱れた。こんな現象はマニュアルにもない。
腕輪のディスプレイを覗きこんだ瞬間、黒いスーツにカメレオンサングラスをかけた男が躍り出てきた。腕輪を見ていたせいで一瞬反応が遅れる。
スーツ姿の男は銃を持っていた。拳銃に見えたが、違う。それは、レーザー銃のほうだった。なぜならば、男が引き金を引いた瞬間、飛んできたのは弾丸ではなく光線だったからだ。
(レーザー銃の小型化には成功していないはずだろっ……!?)
運が良いことに、レーザーは俺の足元に当たり、コンクリートを溶かしただけだった。少しでもそれていたら、俺の身体が溶けていた。
すかさず俺はユニットを遮蔽物代わりにして、XM-31を出す時間を稼ぐ。
男の持っていたのはハンドガンサイズのものだった。
レーザー銃の欠点のうちの一つは、大型であることだ。構造の複雑さのために、どうしても大きくなるのだ。
「ちぃっ……なんなんだありゃ」
とにかく今はこの状況を切り抜けなければならない。
「てかなんで俺襲われてんだ……?」
俺はそんなことを言いながら、XM-31を取り出した。その袋の中にオプションパーツと予備マガジン、9mm弾が入れられていた。全部で30発ある。これだけあれば十分だ。安全装置(セーフティ)を解除し、指をトリガーに掛けた。
ユニットから顔を出して、ターゲットを探す。
(あれだな……遮蔽物に隠れていない? 俺が銃をもっていないと判断したか。素人か……?)
低い体勢でレーザー銃を構えていたスーツ姿の男を瞬時に発見し、照準を合わせ、二発立て続けにトリガーを引いた。乾いた銃声が回りに轟いた。これがスラム周辺じゃなかったら、監視カメラに見つかって即刻警察に連れて行かれることだろう。
「ぐぁっ!」
俺が撃った弾丸はスーツ姿の男の膝と肩にそれぞれ当たって、男は叫び声を上げて銃を落とした。狙い通りに当たったのは意外だった。俺はあまり精密射撃を得意とはしていない。
俺は銃を構えながら地面にうずくまる男に近づいた。男の手から落ちたレーザー銃を蹴り、男の背後をとって、片腕を後ろにさせながら、
「よし、今から質問するぞ。俺を狙った理由はなんだ。答えるも答えないもお前の自由だけどな、状況を考えたほうがいい」
男の頭に銃を突きつけながら言った。
「おっ、俺は何も知らないっ……本当に何も知らないんだっ!」
「お前みたいなやつはクソほど見てきたけどなァ……状況を考えようぜ? なら、質問の仕方を変えよう。誰に命令されたんだ、お前」
「けっ……」
「あ?」
「けっ、掲示板で、募集してたんだ! 簡単な仕事だって書いてあって……それにこんな内容だなんて知らなかったんだ! それで、家にこのスーツと銃が届いて、電話で仕事内容を説明されたんだ……あんたに関する資料はメールで送られてきた……だ、だから助けてくれっ!」
それにしても、よくしゃべる男である。機密もへったくれもないといったような感じだ。だが、その依頼主はこういうことも視野に入れて、この目の前の男に情報を教えているはずだ。
「他に隠してることあるんじゃァねぇか……?」
男が助けを請うのが非常に頭にきた。人を一人殺そうとしたのに、自分は生きようとしているのが気に食わなかったのだ。殺す覚悟があるなら殺される覚悟だってある。それが俺の人殺しに対する理解だった。
俺は銃で男の肩の傷口を抉った。
「がああああああああっ! がっ、ほ、本当に何も知らないんだ! 本当だ、信じてくれぇっ!」
男は泣きながら許しを請う。
「……分かった。命は助けてやろう。でもまあ、きっと俺の知らないところで死ぬぜ、お前」
「えっ……どういう……」
「じゃあな」
俺は去り際に一発、撃たれていない方の足に銃弾を一発放った。
俺はユニットに乗り込み、誰もいないスラム周辺の駐車場に男を残して、ジオフロントのショッピングモールへと向かった。正確にはショッピングモールの前の駐車場にユニットをとめる為に行くのだが。
ユニットを駐車場にとめ、修理中のアクセサリーショップを横目に地図にない道を目指して歩きはじめた。目的はもちろん、あの研究所だ。研究所へと降りる階段を探すのに少し苦労したが、それ以外は順調に進んでいた。地図にあるはずのない道に入っていくところは見られなかった。
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