アンバランスな眼差し
第5話
乾いた音が聞こえる。発砲音だ。戦場で何度も耳にしてきた音。それと同じくらい聞こえる、人間の怒号。撃て、撃てだの同僚の名前を呼ぶ声。
そんな音がそこらじゅうで不快な、戦場のBGMとして流れていた。そんな中、俺は銃を持って敵を撃っていた。
ここにいるのはみんな人殺しだ。
だから殺されても文句は言えないと思う。だから、銃のトリガーを引くのになんのためらいも持たなかった。それに撃たなきゃ、撃たれてしまうから。
小学生くらいの子どもが銃を持っていたとしても、命令されたから、俺は殺した。自爆テロをやろうとする子どもも殺した。少年兵というのは決まって、目の色が濁っていた。自分が本当に生きているのかさえも疑問に持っているような目つきだった。
いつも俺はそれに一瞬の同情を覚えてしまっていた。そして、その一瞬の迷いは戦争では死につながる危険性があった。
だから、俺は次第に自分の心を止めて戦場に行くようになった。殺して殺して殺しまくった。続けていくうちに人間らしさが薄れていった。
俺にはすこし休養が必要だと言われた。きっと疲れているようにみえたのだろう。そして、俺は故郷に一度帰ることにした。
しかし、故郷の日本に帰ったところで、人殺しの匂いが消えることはない――。
「ん……」
目が覚める。こうして、寝ている時もたまに銃声が頭の中で反響するのが最近の悩みだ。
「けど、良く眠れたな……」
そのせいか、身体がいつもより軽い。そしていつものように、手を上げてARコンタクトを――
(って、今は無いんだっけか……)
一度習慣が身についてしまうと、それを変えるのが難しくなる。なんとも厄介なものだ。
朝食を軽く食べて、汗でぬれた服を洗濯籠の中に入れる。このまま放っておくのも気持ち悪いので、シャワーを浴ようとしたのだが、
「この腕輪、どうすんだ……」
この腕輪は、本当に必要な時以外は外せない。
だが、頭の中の情報によれば、水深十メートルまでなら防水機能がつくそうだ。水を腕輪にかけても問題なかったので、シャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びて、着替え終わると、電話がかかってきた。腕輪に。
「ああ……電話機能ってそういうことか」
頭の中に入っているマニュアルには電話機能がついているとのことだったが、腕輪でどう電話するのだろうかと疑問に思っていたのだ。この腕輪、多機能すぎて、たまにどう使うのだろうかという機能が多々ある。
とにかく、俺は腕輪のパネルに表示された通話ボタンを押し、
『あーつながった? 使い方は分かると思うけど』
モサモサした金髪をいじっているリリーが、パネルに映った。
「まあ、頭に叩き込まれたからな。分かる」
パネルから目線を外せば、目の前にホログラムでパネルの画面が表示されるようになっている。
『そう。ならいいわ。とりあえず成功ね……そういえば、何か周りで変わったこととかあった? ストーカーがいるとか』
「男にストーカーなんてつくわけ無いだろう……でも、ここに引っ越してきてまだ二日目だからな。目立った変化というものを定義するのは難しい」
『あらそうだったの。新生活ってワケ……でもおかしいわね、就職とかそういう季節じゃないでしょうに』
「諸事情ってヤツだ。で、特に用が無いなら切るぞ」
『ええ。あなたが無事ならそれでいいわ。じゃあね』
リリーはそう言って、一方的に電話を切った。なんとも迷惑な女だ。しかし、彼女の言ったことで気にかかる言葉があった。
(無事なら……ってどういうことだ……)
俺のみが危険にさらされているとでもいうのだろうか。護身用の道具はいくつか持っているが、それでは心もとないかもしれない。
(こういう考えになってしまうのも職業病か……)
しかしこれだけはどうにもならない。とにかく落ち着かないのだ。
ジオフロントに銃器を扱っている商人がいるから、そいつのところに行っておこうか。以前世話になったこともあることだ、武器を買う買わない関係なく、顔を出しておくのも悪くない。
家具が来るのは今日の夕方らしいので、それまでに戻ればいい。そう思い、俺は車庫に降りて、ユニットを出した。
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