27 八咫烏の昔語り

 昔々あるところに、一匹のオサキが生まれました。

 ある商家の庭に作られた巣穴を住処としていた一家の末っ子で、一年ほどでほとんど大人と同じように動き回ることができるようになりました。オサキ一家は、その商家を豊かにするために日々東奔西走しています。遠くからお客を連れてきたり、近くの店の商売を邪魔したり。全てが正しきよいことではなかったかもしれませんが、そうやって主に尽くすのがオサキという種族なのでありました。

 すくすくと成長した一匹のオサキの子は、一生懸命それを手伝いしました。それでもやはり子どもですから、楽しみにしているのは、食事の時間でした。奥さんが米櫃の縁をおしゃもじで叩くのが合図です。家族みんなで駆け寄って、貪るご飯は何よりも美味しいと今でもオサキの心には残っているほどなのですから。

 しかし、月日はどんどん流れ去っていきます。時代は移り変わり、妖怪の存在も半ば忘れられ、半ば蔑まれていくのです。もう誰も米櫃の縁を叩くことはありません。オサキ一家は途方に暮れてしまいました。このままでは、食べる物が何もなくなってしまう。それは、恐ろしい事態を招くこととなりました。

 共食いです。オサキがオサキを喰うのです。もうとっくに一人前になっていたオサキの子は、死に物狂いで逃げました。逃げて逃げて辿り着いたのが、九尾の女狐のところでした。当時はまだ、一本しか尾の生えていなかったオサキは必死の思いで訴えました。

「兄上や母上の争いを止めてはくれぬか」

 九尾の女狐は了承しながらも、対価を要求しました。

「アタシはね、その命がほしいのです」

 一つの尾しか持たぬオサキは、深く考えずに頷いてしまいました。ただ、八咫烏の智慧により取り交わされた約束一つが、このオサキの命を三百三十三年も守っていました。

「いつか、この未熟者の吾が人に憑き、主に報いた暁には、必ずやこの命を捧げようぞ」

 奇しくもその時は近づいている。

 小さな末っ子に、幸あらんことを。



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