25 鏡が映すもの

 最初に感じたのは、地面の温かさだった。眼を見開くと、横に傾いた景色が映る。暗闇に包まれた住宅街があった。私は道路に倒れてるらしかった。ちょうど真上からだけ街灯の明かりが落ちている。ゆっくりと半身を起き上がらせて、辺りを見回す。見覚えがある気がするが、暗いせいでなんとも確信が持てない。そろりそろりと立ち上がった。

 人っ子一人いない辻の真ん中に、私はいるようだ。

 何がどうして、こんなところにいるんだろう? さっきまでは、えっと、そうだ。オサキと一緒に稲荷神社の鳥居の前にいたんだ。それがなんでこんなところに? 時間だって、あれから三、四時間は経っていそうだ。

 何か手がかりはないかと思って、注意深く周囲を見渡し直すと、二枚のカーブミラーが目に入った。途端、ここがあの鏡の妖怪たちに出会った場所だということを理解する。

「ねえ!」

 呼び掛けてみると、二枚の鏡が確かに笑った。

「あら、オサキツキだわ」

「おお、マジだマジだ」

「そうよ、オサキツキよ」

 言い返すと、二枚の鏡は心底可笑しそうにまた大笑する。

「あら、気づいてないんだわ」

「おお、そうだそうだ」

「気づいてないって、何が」

 「鏡」と二つの声はいつかのように口を揃えた。相変わらず、気持ち悪いぐらいにぴったりと息が合っている。

「鏡、鏡、鏡、鏡、鏡、鏡、鏡、鏡」

 木霊するように反響していく鏡という三音が鼓膜を揺らす。私はその奇怪な声に導かれ、自然と右の鏡を見上げていた。

 そこにいたのはまぎれもなく、狐の腕も脚も持たぬ、普通の人間だけだった。



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