第27話
態度はあからさまなのにちっとも動き出さないクニさんに、バイト仲間やオーナーたちは彼女のオーダーを受けに行かせたり、彼女との会話にクニさんをいれてみたりと何度か優しく背中を押した。クニさんの性格を知ってか、冷やかしたり、好きなんだろ?とせっつく者はいなかったが、店中が暗黙の内に応援していた。もちろん、マキもだ。
そうしてしばらく経ち、クニさんと彼女は会えば必ずどちらともなく話せる関係になった。話してみると、ふたりはとても気があった。好きな小説の作家や幼い頃観ていたアニメが同じだったり、食の好みが似ていたり。とにかく話していると時間があっと言う間に過ぎていく。こんな感覚は初めてだ。クニさんは一層彼女に惹かれていった。
彼女と話せるようになって最初の夏、食事を終えてクニさんからお会計のおつりを受け取りながら、彼女が絵の展覧会へ一緒に行かないか?とクニさんを誘ってきた。
「え?僕と?」
あまりの驚きに動揺し、聞き返してしまった。
「うん、前にこの絵の作家さん好きって言ってたじゃない?あたしも気になってたら市の美術館で展覧会あるって知ってね!」
「わー、僕知らなかったよ!」
「て、ことはもちろんまだ行ってないのよね?ぢゃあ決まりっ。」
彼女は勢いよくそう言うとチケットを差し出した。
「今度の土曜日、11時に駅前集合でね!じゃ、おやすみー!」
驚いたままのクニさんの手にチケットを握らせ、返事も待たず彼女は手を振り店を出て行った。そのまま20秒ほどクニさんは呆然と手の中のチケットを見ながら、彼女の言葉を何度も頭の中で反芻した。そして、ようやく事態を飲み込むと一気に体が熱くなった。どうしよう、店以外で会うなんて初めてだ。どうすれば、なにをすれば…体温の上昇とともに頭がフル回転し始めた。今度の土曜ってあと4日!?
「あ、土曜バイト…」
やっと出た言葉に愕然としていると、
カウンターから店のオーナーが
「いいよ、休んで。日曜日頑張ってくれ。」
クニさんの方を見ることなく、グラスにアイスコーヒーを注ぎながら言った。
「ありがとうございます!!」
クニさんは深々と頭を下げた。
カフェ ムジカ @Meganeko
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