第25話
それでもマキは大好きなクニさんとの時間を少しでも過ごしたいと、必ずひと山越えて夕方からのクラスの前の腹ごしらえに帰ってくる。今クニさんがほうばっているパスタはもうすぐ帰るマキのおなかにも納まるのだ。
もうすぐマキが戻るころだな、と皿を拭きながら相変わらずぼんやり外を眺めるアイカに女子大生2人組が「お会計おねがいします。」とレジカウンターの前に立って声をかけた。「はーい。ありがとうございます。」アイカはレジへとむかった。
「うわさどおり、おいしかったです。」
「ほんとにおいしかったよね!ごちそうさまでした。また来ます。」
女子大生2人がそう楽しげにアイカに声をかけた。
「あ・・・」
「ありがとね、また来てね!」
声のする方向に目を向けると、アイカの「ありがとうございます。」にかぶせるように、クニさんが玄関にオシャレに立ち、ドアノブを紳士的に開け、手を振りながら女子大生に声をかけた。
「は、はい!」
女子大生はビックリしながらも嬉しそうにエスコートされて店の外へと出て行った。さっきまで隠れてパスタ食べていたのに、いつのまに・・・とアイカは内心あきれたが、かわいさと若さあふれる女子大生のキャッキャとした笑い声に男の性だな、しかたない、と苦笑いしながら自分も見送りに外へとでた。
すると鮮やかなオレンジ色の車がちょうど店の駐車場に車をとめているところだった。女子大生2人組はクニさんとアイカに会釈しながら自分たちの車へと向かって歩き出した。
「いいお店だったね!」
「そうでしょ?」
「連れて来てくれてありがとう。」
クニさんとアイカは女子大生の会話がうれしくなって、見送りながら耳を傾けていた。そしてオレンジ色の車からは個性的なアジアンテイストな女性が大きな荷物を持って降りてきた。女子大生の話は続く。
「雰囲気がいいよね、あのお店。」
「店もそうだけど、あの二人がいい感じだよねー。」
「そうそう!店員さんたちがまたいい人だったね!」
聞こえてるよ、ありがとう。クニさんはニヤニヤと顔をほころばせていたが、アイカは一気に顔をしかめた。
ああ・・・嫌な予感。
とまらない2人組の会話。
「・・・あの二人って、夫婦なのかな?」
「そうだよ!絶対!夫婦でしょー?たぶん。」
あーヤメテ・・・。アイカは額に手を当ててうつむいた。
そのとき。
「ダーリーーーーン!ただいまーーーー!」
オレンジの車の持ち主が大声でクニさんに向かって手を振りながら走ってきた。
「おかえりー!!マキチャーーーン!」
クニさんも車の持ち主、妻のマキを迎えに走り出した。突然の状況に女子大生2人組は絶句。アイカはため息をついた。
「ご飯できてるよ?」
「ありがと!」
驚く女子大生に見せ付けるかのごとく夫婦は抱き合い見詰め合ってイチャついている。
「え、あ、あっちが奥さんみたいね。」
「う、うん。」
女子大生2人組は気まずそうに車に乗り込みあわてて車を発車させた。去っていく車を夫婦は抱き合いながら手を振って見送った。
「だから、ああいうのはお客様の前ではやめなさい。」
店に入りながらアイカがマキを睨む。マキはまったく気にとめる様子はない。どんどん店に入っていきカウンターに腰掛けた。
「なにがー?」
「なにが、じゃないでしょ?男女2人で経営してたらそういう誤解はよくあることだし、そんなことで焼きもちやくんじゃないの!すくなくともお客様には態度に出さないでちょうだい。」
「わかってるわよ、それは。でも、クニさんの顔見たら、ねー?」
マキはクニさんに微笑みを向けた。
「ねー。」
クニさんはニッコリしながらマキにパスタを差し出した。
「ねー、じゃないですよ、クニさん!」
「クニさんいただきます。」
怒るアイカをよそに、マキはパスタをほおばりだした。アイカは乱暴にグラスに水を注ぎバンっとマキの前に置いた。そしてマキの顔をのぞく。
「今後は気をつけなさい。いい?」
「はーい。」
マキは目をそらしながら注がれた水を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます