第22話
ナナミは顔上げ、ユウトを真っ直ぐに見据えた。
「田中さんを好きだと言えないのは、俺のせいなの?」
ナナミはゆっくり、でもユウトから目をそらすことなく尋ねた。ユウトは身体を小さく震わせた。
「好きになった相手が女の子だから、僕に悪いと思って言えないの?」
少し声が震えた。だが、ナナミは続けた。
「やっぱりユウトは女の子が好きで、所詮男の僕ぢゃあダメだったんだって僕が落ち込むと思って、同情したのか!?」
バンっ!!
ナナミは再びロッカーに両手を叩きつけた。
「ち、ちがう!俺は女だからとか男だからとかそんな理由で彼女を好きになったんぢゃない!!」
ユウトはナナミの胸ぐらを掴み叫ぶと、すぐはっとして、その手を離した。
「ほら、やっぱり好きなんだろ?田中さんのこと。」
ナナミは掴まれて着崩れた制服を直しながら言った。
「ユウトが性別で人を好きになったりしない、人間性で人を選ぶこと、僕が1番知っているのに、どうしてそんな風に思うのさ。」
ユウトはばつが悪そうに目を背けた。
「お前を人間として好きなのはかわらないから、俺もどうしたらいいか分からなかった。」
ユウトはそういうとロッカーにもたれながらズルズルとしゃがみ込んだ。
「ただ、気が付いたら彼女が頭を離れなかった。はじめは気のせいだと思って、お前とたくさん一緒にいる時間をつくれば、落ち着くと思ったんだよ。」
だから、あんなに頻繁にデートに誘ってきたんだ…。あんな頃から、すでにユウトの心は幸子のもとにあったのだ。ナナミは心臓が掴まれるような苦しさを感じた。
「すまない、ナナミ。でも信じてほしい、俺は彼女を女性だから好きなわけぢゃないんだ。」
ユウトは頭を下げた。
だから余計に辛いんだけどな…。女だからなら、まだマシだったのにな…。本当正直な男だ、こいつは。ナナミはフッと笑った。
ナナミはしゃがみ、うつむくユウトの顔を覗き込んだ。ユウトは泣いていた。
「わかったから、泣かないでよ。こっちが泣きたいんだっての。」
ナナミは苦笑した。
「ごめんな、そうだよな。」
ユウトは涙を腕で拭った。
「そうだよ。」
ナナミはそう言いながらユウトの頭をポンポンと叩いた。そして、頭から手を離すと、ユウトをすっと見つめて
「でも、僕はユウトの前で泣いてあげたりしない。」
と笑顔で言い放った。
ユウトは一瞬目が点になった。が、しばらくうつむきながら黙ると、クスクスと肩を震わせて笑い出した。
「これが、アイカとマキちゃんが言う『腹黒ナース』のナナミなんだな!」
「なっ!?」
ナナミがムッとすると
「ブッ!ハハハハ!!!」
ユウトは耐え切れず声を出して笑い出した。
「なーっ!最っ低!!!振って5秒で笑いものとかありえないんだけど!!」
ナナミは顔を真っ赤にして怒り、笑いながら謝るユウトの頭にげんこつを食らわすと、立ち上がった。
「せいぜい頑張んなよ、ユウト。一応分かってると思うけど、田中さんは患者さんで高校生で未成年でその上天然美少女だから。」
言いながら更衣室のドアへ向かいドアノブに手を掛け、ユウトに背を向けた。ユウトは黙ってナナミを見上げていた。
「あと、夜間、患者さんを夜這いに行くのやめろよな。僕は犯罪者の元カレにはなりたくはないんで。」
ナナミはドアを開けながら振り返り、ニヤリと笑うと更衣室を出て行った。
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