第21話

ナナミはためらうことなく更衣室のドアを開けた。

息が切れフラフラになりながら、ロッカーにもたれ掛かるユウトがいた。

ナナミも息が切れ足も重たかったが、歩みを止めずユウトに近づいていった。

「なんで…逃げんだよ。」

ナナミは息を切らしながら尋ねた。ユウトはハアハアと息を切らしながら笑った。

「さすがだな。相変わらず足は早いし、体力がある。」

ナナミはユウトの目の前に立ち、ユウトの顔を挟むように両手をおもいきりロッカーに叩きつけた。

バンッ!!

大きな音が更衣室に鳴り響いた。

「穏やかぢゃないなー、ナナミ。」

ユウトは動じる様子もなく笑っていた。

「逃げるってことはなにかあるんだよな?」

ナナミはユウトの顔をじっと見つめた。

「なにってなにさ?」

ユウトは変わらず微笑みながらナナミを見返した。

「あの子のこと。田中さんのこと、好きなんだろ?」

ナナミはたまらず頭をもたげ尋ねた。

「なにいってるの?ナナミ。んなわけないぢゃん。」

「でもあの目は…。あの目は…。」

ナナミは目をつぶり、先程のユウトを思い出した。小さな隙間から見えたユウトは、ぐっと怒りを堪え、拳を握って、自分を見ていた。あれは決して恋人に向ける目ではなかった。

予感はしていた。幸子がやってきてからずっと。

「なにためらってんの?好きなら好きっていいなよ!」

ナナミはさらにつめよった。もう自分がどうしたいのか分からなかった。真実が知りたい。でも知りたくない。点滅するライトのように、交互に心に押し寄せていた。

「だから、ちがうって…。」

ユウトが呆れたようにつぶやいた。

どうして、どうしてユウトは真実を話してくれないのか。ナナミは理由をわかっていた。ただ、それを自分からユウトに投げかけなければならないことが嫌だった。でも、こちらから言わなければ、ユウトは決して真実を話さない。

ナナミはふっとため息をついた。こちらから、投げかけるしかないよな。ナナミは決意した。

ユウトはそういう優しい男だと、嫌というほど知っているから。

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