第19話
ナースステーションに戻りカナエに事情を話すと、ぶつくさと文句を言いながらも了解してくれた。
最近なにかとバタバタしていたナナミが、こうして幸子の絵のモデルをするのは1週間ぶりのことだった。
「しばらくぶりになっちゃってごめんね。」
ナナミが幸子に謝った。
「いえいえ!お忙しいところ無理を言っているのはコチラですし!」
幸子は手を振って否定した。
「それに今日だって・・・。」
そういうと、幸子は申し訳なさそうにうつむいた。ナナミは笑いながら
「いいのいいの!言ったでしょ?こんな楽しい仕事くれてありがとうって。」
といい、幸子の頭をガシガシと撫でた。幸子は照れくさそうにへへっと笑うと
「じゃ、さっそくお願いします。」
と描き始めた。
どれくらい時間が経ったのだろう。こうして絵のモデルをしていると、いつも時間の感覚がなくなってしまう。ただじっと同じ姿勢で幸子と向かい合っていると、眠気にも似た、暖かく安らいだ気持ちになる。それはまるで穏やかで暖かな幸子そのものに包まれているような、不思議な感覚だった。
「横田さん・・・。横田さん??」
幸子がこちらを心配そうにのぞいていた。ナナミはハッとして幸子を見た。
「ごめん、ぼーっとしてた。」
幸子はほっとしたように笑った。
「いえ、お疲れのところお付き合いいただいてすみませんでした。お時間になりましたので、今日はここまでで。」
「あ、うん。もうそんな時間?」
ナナミは腕時計を見た。モデルをはじめて30分が経っていた。
「はい、ありがとうございました。おかげで眠れそうです。」
「そう、それはよかった。」
「はい。」
そう返事をして、幸子がスケッチブックを閉じ、片付けようとしたときだった。スケッチブックに挟まっていた消しゴムがスルリとベッドの下へと落ちていき、幸子も咄嗟に消しゴムを追いかけて身体を思い切り床に傾けた。
その瞬間━。
「きゃっ。」
ベッドから滑り落ちそうになった幸子はナナミに抱きかかえられていた。同じように落ちていく消しゴムを追いかけしゃがんだナナミがタイミングよく幸子を下から受け止めた。
「だ、大丈夫?」
ナナミが幸子を抱えたままたずねた。
「あ、はいすみません・・・。」
幸子は滑り落ちた恥ずかしさから真っ赤にした顔を上げ、ナナミを見つめた。その顔がおかしくて、ナナミは思わずプっと笑った。
その刹那。
ナナミは背中に視線を感じた。なぜだか胸に刺さるような視線。ナナミは幸子を抱えたまま視線のする病室のドアに向かって振り返った。
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