第18話

静まり返った廊下に出ると、グッと胸が苦しくなった。薄暗く静まりかえったこの景色は慣れず、言い表せない不安に襲われ苦手なのだが、今日のこの胸の苦しさはいつもと違っていた。

また、ユウトを見てしまったらどうしよう・・・。

踏み出そうとした脚がすくんだ。しかし、怖がる自分にイラついて、ナナミは力強く歩き出した。

一通りの部屋を回り、ナナミは幸子のいる病室のドアの前に立った。どうしても怖くて後回しになってしまい、とうとう最後に残ってしまった。

ナナミは深呼吸をすると、そっとドアを開けた。部屋は静かで患者たちの寝息も聞こえた。ひとつひとつベッドを周り、一番奥の幸子のベッドへ向かうと、幸子はすやすやと寝ていた。ホッとため息をつくと、ナナミは幸子の掛け布団をかけ直し、その場を離れようと幸子から背を向けた。

「待って!」

「え??」

制服の裾を引っ張られ、軽くのけぞったナナミが慌てて振り返ると、寝ていたハズの幸子が布団から腕をだしてコチラを見ていた。

「た、田中さん寝てなかったの?」

ナナミが向き直って尋ねると、幸子は恥ずかしそうにコクンと頷いた。

「見回りにいらっしゃったのが横田さんだったので、つい声を掛けてしまいました。すみません。」

幸子は申し訳なさそうに言うと、掴んでいた手を離した。

「どうしたの?体調優れない?」

「いえ、違うんですけどなんだか寝付けなくて。」

幸子が困ったように笑った。

「そっか。じゃあ、今日も絵、描く?」

ナナミが尋ねると、幸子は嬉しそうに笑うと

「ご迷惑でなければ!」

と起き上がった。



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