第17話

翌朝、部屋を周る支度をしていると、教育中の新人が寄ってきた。

「横田さん、行く前にこれ、差し上げますので召し上がってください。」

そっとナナミの制服のポケットに何かを入れた。ナナミがポケットを確認すると、栄養ドリンクが入っていた。

「余計なお世話かと思ったのですが、お疲れのようでしたので。」

新人は耳打ちすると、ナナミのそばを離れ、仕事を始めた。さっさから見当たらないと思っていたら、これを買いに行っていたのか…仕事中に…と少し呆れたが、とてもうれしかった。そして、やはりこの腫れた目は隠せてなかったか…と珍しくかけてきたメガネに触れた。

ナナミはさっと休憩室に入ると貰った栄養ドリンクを一気飲みした。

「ぷはーっ。」

思わず声が出るほどなかなかキツイドリンクだ。よし。多少世間知らずだけど、少しは気の利く新人を立派に独り立ちさせる為にも、まずは仕事をちゃんとこなそう。ナナミはドリンクの瓶をゴミ箱に勢いよく投げ捨てると仕事に向かった。


あれから数日たち、ナナミはだいぶ落ち着いていた。相変わらずユウトとは話せていなかったが、会えないことで冷静でいられたので、逆に有難かった。

あの日は動揺して見逃していたが、今になって思い返すと、ある事に気がついた。

確かにユウトは愛おしそうに幸子に触れていた。しかし、肝心の幸子は眠っていて、ユウトがしたことに気がついていなかった。

幸子とユウトが話していたのもモデルをしていた時がピークで、最近では2人が一緒にいるのを見るのはリハビリを行っている時くらい。

幸子とくだらない話をしたり、頻繁に顔を合わせるのはむしろナナミの方が多い。その上、幸子の様子からも全くユウトを意識しているようには見えないのだ。

つまり、2人が疑わしき関係にあるわけではなく、ユウトだけに疑いがあるということだ。ナナミはホッと安堵したが、すぐに首をヨコに激しく振った。

「全然よくない!…だって…それって…。」

ナナミはそこまで言うと口を噤んだ。ユウトが自分でない人間を好きになってしまっていりかも知れない事実は変わっていないのだ。

「う~、あぁぁ~!!」

ナナミは頭を抱え叫んだ。

「うるさい!!!」

バンッ!!

「いったぁぁぁあ!!」

ナースステーションで突然叫んだナナミの頭ををカナエが持っていたファイルで叩いた。

「さっきからナナミその繰り返しよ?いい加減にして。さっさとラウンド行ってきてよ!」

「カナちゃんひどい!あんまりだ!てか、今日ラウンド当番カナちゃんぢゃん!」

涙目で頭を摩りながらナナミが口を尖らせた。

「その調子でさっきからろくに仕事もしないで、あたしがどれだけ動いてたか知っての発言?」

カナエが鋭い目で睨むと、ナナミはしぶしぶ懐中電灯を手にしてナースステーションを出た。

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