第15話
そんなある夜勤の日。真夜中のラウンドを早々と終え、ナースステーションに入ろうとした瞬間、少し先にある幸子のいる病室に入る人影が見えた。先程あの部屋をみたときは、皆ぐっすりと眠っていたはずだ。誰かお手洗いにでも行ったのでは…とも思ったが、にしては時間的に早すぎる。なにより入って行った人影があの病室にいる患者たちよりも大きく見えたのだ。
やはりここは確認すべきだろう。ナナミは胃を決して病室へ向かった。
絶対に人だった。そうだ、そうに違いない。ナナミは自分に言い聞かせた。こういうとき、ベタな考えが頭をよぎる自分が嫌でならない。第一仕事を始めてから一度もそのような出来事に遭遇したこともないし、見たこともない。もちろんみたという同僚もいないのだ。大丈夫。お化けなんかじゃない・・・。
恐る恐る、ナナミは病室のドアの前にやってきた。息を呑み、懐中電灯を握りしめ、ゆっくりと10センチほど扉を開けた。そしてゆっくりとその隙間から部屋を覗き込んだ。
その瞬間、中の人影が動いた!
「・・・はっ!」
ナナミは声にならない声をあげ、口元に手を当てた。その人影はちょうど幸子のベッドサイドにいた。
暗くてよく見えない。ナナミは目を凝らした。
すると次第に目がなれ、その人影は確かに人間であることがわかった。
誰だろう・・・?ナナミはさらに凝視して驚いた。
「・・・・っ!!!」
今度は本当に声も出なかった。頭が真っ白になりそうになった。
その人影は幸子を眺めるユウトの姿だった。
頭の中ではサイレンが鳴り響き、見たらいけない!見たくない!と叫んでいるのに、身体が言うことをきかない。ナナミはあまりの衝撃に一歩も動けないでいた。
ユウトはナナミの存在に気づかず、幸子に近づいた。そして、幸子の頬にそっと触れた。それはそれは大事そうに。
ナナミはやっとの思いで足を動かし、静かにドアを離れた。もうユウトの姿を見ていられなかった。
夜勤の夜が明けた。ナナミは黙々と仕事を終わらせ、職員用の駐車場へ急いだ。絶対にこぼしてはいけない。早く車に乗らなければ。ナナミは俯くことも出来なかった。下をむけば、重力に負けてこぼれてしまうようで怖かった。
なんとか車に乗ると、急いでエンジンを掛け、車を走らせた。
カランカラン…
「すいませんー。まだ準備中でし…て、ナナミ⁈」
ナナミは気が付くとムジカのドアを開けていた。開店準備をしていたアイカが驚きながらナナミに近づいた。
「アンタ、なんて顔してんのよ。」
アイカはポケットから布巾を出すとナナミの顔を拭った。
ナナミは顔をクシャクシャにして、わぁーんと声を上げて泣いていた。
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