第9話

ナナミはその後もイライラが消えずにいたが、イライラする自分にも腹が立ってきた。気を紛らわそうと、無心になり、黙々と仕事をこなすことにした。すると、ランチこそ食べ損ねたが、奇跡的にめ定時に帰宅できる程に早く仕事を終えることが出来た。

梅さんたちに感謝するつもりはないが、なんだかラッキーな気持ちになった。ラッキーついでだ!と、ナナミはダメもとでユウトに連絡を入れてみた。 すると、休日に呼び出されていたユウトも、やっと解放されたところだった。

「ぢゃあ、うちくる?」「あ、うん!」

実にユウトと二人で過ごすのは二週間ぶりだ。

ナナミはラッキーが続き嬉しくなったが、やっぱり梅さんたちに感謝なんかしてやるもんか!と心で叫び、一人頷いた。

「お前今日、あの梅さんを黙らせたんだって?」ユウトが風呂あがりのビールをのみながら、洗濯物をたたむナナミに訪ねた。

「べつに。」

・・・。

二人の間に沈黙が流れた。今日、一番触れられたくない話題にナナミは洗濯物を畳む手を止め、鋭い口調で答えてしまった。ユウトが軽い気持ちで聞いたのも、この態度に少し驚いている事もすぐに分かった。ナナミはあわてて、作業を再開しながら穏やかな口調で続けた。

「てか、なんでそんなことユウトが知ってるワけ?」

少し驚いた様子でユウトは缶ビールを含みながら

「ナースステーションで耳にしてさ。」と笑った。

「そっか。いや、いつものことなんだよ。ただ、あんまりにも毎日続くものだからおもわず、ね。」

ナナミがバツの悪そうな様子で今日の出来事を語るのをユウトはにこやかに、でも真面目に聞いていた。

「確かにさっちゃんは人気者だしなー。いい子だもんな。でも、みんなお前のことはもっと好きで、親しみをもってるから、そういう態度がとれるんだよ。」

「そんなもん?」

ナナミがユウトに尋ねた。ユウトはナナミの頭をポンと叩くと

「そんなもん!」

と言って缶ビールを飲み干し、新たな1本を取りにキッチンへ向かっていった。

結局いつもユウトのポジティブに流されている気がして、なんだか腑に落ちない部分はあるものの、それに助けられている自分になんだか笑えた。ナナミも「ビール!」と叫び、キッチンへ向かった。

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