第7話

田中幸子は、色白な肌で、綺麗な地毛の茶色がかったのロングヘアがよく似合う美人だった。身長はスラリと高く細身で、ヘアカラーと同じ茶色の大きな目が印象的だ。ユウトのことがありナナメに観ているナナミでも、美人と認めざるを得ないのだから、自分以外の人間には(ユウトを含め)一層美人に見えているのだろう、と、ナナミは思った。

「田中幸子さんですね。はじめまして。これから移る病棟であなた担当になります、横田です。よろしくお願いします。」

ナナミが一礼すると、幸子はニコやかに微笑んだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします。横田ナナミさん。」

何故名札にも記されていない名前を知っているのか?ナナミは眉を寄せ、驚いた。幸子はそんなナナミにふふっと優しく笑みを浮かべてみせた。その笑みは、美しさの中に若さゆえの可愛らしさと彼女の柔らかな雰囲気が表れていた。直視したナナミは思わず顔を赤らめた。

「どうして名前を?」

たまらずナナミが訪ねると、

「すごく楽しみにしていました。お会いできるの。横田さんを初めて院内でお見かけして、とてもキレイなお顔をしてたので、すごく気になっていて。」

と、幸子は目を輝かせて言った。

「え?どこが?でも、名前!」

恥ずかしさからか、ナナミはさらに顔を赤くした。

「横田さん、院内では人気者ですもの。横田さんを知らない患者さんはいらっしゃらないと思いますよ?」

幸子は当たり前とでも言いたげに答えた。

ナナミは耳を疑った。これまでの人生でそんな記憶も歴史もないし、めんどくさいことに巻き込まれたくないので、目立たなぬようにと日々、心がけてきた。就職して、この病院で勤務をはじめてからは特にそうしてきたつもりなのに、よりにも寄ってなぜ?ナナミは信じられないとばかりに幸子を見つめた。

「ぷっ。横田さんのその顔、とっても可愛いです。いつものキレイな顔より好きかもです。」

幸子は可愛らしく笑った。なんだか、馬鹿にされたような、遊ばれたような気持ちになったナナミはムッとした。

「大人をからかっちゃダメだよ!ほら、もう訳わからないこと言ってないで、いきますよ?」

ナナミは幸子を車椅子に促すと、エレベーターへと向かった。車椅子を引きながら、幸子が前を向いているのを確認すると、ほっぺを膨らましながら歩を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る