第2話

「ありがとうございます!って…ナナミか!」

慌てて乗り込んだのは、理学療法士であり、ナナミの彼氏であるユウトだった。

「お疲れ様。」

降りる階のボタンを押すユウトの背中にナナミは声をかけた。

「ナナミ、今深夜明けだっけ?そっちこそお疲れ。」

「そう、深夜明けで休み。夜にアイカとマキに会うから早く帰って寝ないと…。」

「そっか、二人によろしくね。僕も随分会ってないし。」

そうね…とナナミが言いかけると、ポーンとユウトの降りる階の到着音が鳴った。

ユウトは開くドアに向かいながら、

「ぢゃ、お疲れ様です。横田サン。」

と会釈まじりに告げエレベーターを降りた。

「あっ…、はい。」

ナナミが返事をすると同時にドアは閉まり、再びエレベーターはナナミを乗せ動き出した。

「あーあ。4日振りだってのにぃー。」

ナナミは1人呟いてエレベーターの壁に寄りかかった。


ユウトとナナミは学生時代から、くっ付いたり別れたりしながらも8年ほど交際している。

顔立ちが良くおもしろいユウトは学生時代はもちろん、ナナミと同じ病院へ就職してからも男女共に人気があり、目立つ存在だ。

ゴシップが好きな病院関係者にとって院内恋愛は恰好の餌食であり、目立つユウトのそれとなれば一層ゴシップの標的になるのだ。

人見知りで内気なナナミにとって、それは悪夢に等しく、とても耐えられない。よって、二人の関係は公には知られておらず、知る者は院内でも数人しかいない。当然、院内で恋人同士の会話など出来ないし、名前を呼び合う時も先ほどのように気をつけねばならないのだ。

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