カフェ ムジカ
@Meganeko
1.病棟の恋人
第1話
1.
今日明日の境目を、ナナミはライトを片手に歩いていた。辺りは薄暗く、左右にはいくつもの部屋が並び、そのドアは全て閉じられている。ふと立ち止まり、ライトを消してみる。行く先を見つめると、どこまでもこの闇が続いているように思えて、足が竦む。
もうこの4年、一週間に2度はこの闇を歩いているのに、中々慣れることができない。お化けを見たことがあるわけでもないし、誰かに襲われたこともない。しかし、この暗闇はそれ以外の「何か」に、じっと見つめられているような恐怖感をあたえるものだった。
ナナミはとある市立病院に勤務する看護師である。深夜のラウンドを終え、暗闇になれた目には痛いほど眩しいナースステーションへと足早に滑り込んだ。
「お疲れ様。どうだった?」
同期のカナエがナナミが戻ってきたことに気がつき、尋ねた。カナエはナナミと高校時代からの友人でもあり、移動でこの6東の病棟へ来たばかりのナナミにとって、頼れる存在だ。
「うん、いまのところ。今日は気味が悪いくらい皆グッスリさんだったよ。」
二人はフフッと笑い合うとそれぞれの仕事を再開した。
この市立病院は、各階東西に別れている。ナナミはその6階、東側の病棟―通称6東に勤務している。街を見下ろすように高台に建てられた病院の窓からの眺めは良好で、穏やかな田舎の風景が広がっている。
ナナミが新米時代を過ごした病棟は、西側にあり、柔らかな夕日が疲れたナナミを癒やしてくれた。一方、今いる6東は輝かしい朝日がキラキラと窓から差し込んでいる。まだ寝たいとだだをこねる患者と、夜勤明けで眠い目をこすりロッカールームを後にするナナミにとって手放しでは喜べるものではなかったが。
「お先に失礼します。」
自分たちと入れ替わり勤務に入る先輩看護師に挨拶をして、エレベーターへ向かう。
ポーン。
到着音が囁くように鳴ると、薄暗いエレベーターの中へと乗り込む。
「の、乗ります!」
閉まりそうなドアの隙間から聞こえた声に、ナナミはあわてて「開く」のボタンを押した。
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