ツルガ

佐藤正樹

第1話

南極には噂があった。

どう計算しても、あんなに氷がある筈がない。

氷の量がおかしい。異常なほどに氷がある。

だから、たぶん、大昔の異能力者たちによって大量の氷が作られたのだろう。

定説ではそうなっているし、今もそうだ。

氷を作るにしても仕事が雑だと研究者達は言う。

まるで大急ぎで何かを封じ込めたかのようだと。



三年前に、何かがあった。どこかで作られたのか、生まれたのか、時を越えて現れたのか、宇宙から来たのか、異次元か。誰にも分からなかったが、何かが現れたのは誰もが分かった。

異口同音に地球上の人類全てが何かが現れたのだと確信を持ったその日。人類から異能と称され疎まれた能力が全消失した。持っていた者たちは持たざる多くの者達によって、白昼堂々引きずり回されて殺されていった。政府も率先して元異能力者を廃除、あるいは研究所に隔離しての科学者の研究材料とした。逃げ延びた異能力者も少なくないが、異能力が消失した以上、町交番の警官1人の力もなかった。三年前のその日は、異能力者に難渋していた人類あるいは地球にとっての革命であるとされた。


地球温暖化が言われ始めたのもその頃からだ。

フロンによってCO2によって、火力発電によって内燃機関によって、焼畑農法によって、多くの牛のげっぷによって、言うなれば、人類の所業、生活によって多くの氷が解け始めた。氷河の氷、シベリアの氷、南極の氷が解け始めた。

氷と共に南極の古い封印が解け始めた。



その三年後からさらに五十年後の水曜日(晴れ)

俺は多摩川の河原に寝転んで空を見ていた。

左目にはめられた網膜レンズからは情報が溢れ続けていたが、その全てを無視した。

俺の左目は、とうの昔に病気か何かで見えないのだ。左目の奥に集中力を注げば網膜レンズからの溢れる情報は何とか受信出来るがあえて無視した。1人でいたって別に良いだろ。

代わりに、俺の今の情報も政府には送らないと言うか、送れない。聞かれれば寝てたとでも言えばそれで済むだろうし、聞かれる訳もない。聞かれたとしても言い訳は俺の得意分野。誰も追い付けない。

1995年の秋がこうして何気なくすぎて行く。

学業も知らん。オーロラが何だ。南極など知った事か。


人類など俺とユキノさんを残して滅びてしまえば良いのだ。

あとは、ネコとコンビニがあればいい。

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ツルガ 佐藤正樹 @cha

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