第25話 援護の言葉

 その後、騎士団長殿と警備分隊分隊長殿による私への弁護が行われた。


「城が占拠され、場内に居た者たちが郊外の森へと魔法で移送された後、我々騎士団はご存知の通り集会場や宿屋にその身を置かせて頂きました。その後城へ交渉へ行き、その場に騎士テオドシウスも同行しました」


 そして交渉の場で成果の上げられず、第三分隊長殿に連れられ、教会で私は横たわるフルーストリと出会い、そして【契約】を成した。


「彼は契約を拒みましたが、魔物の声は彼の深層心理に語りかけ、ただ首謀者の男との会話を望んでいたテオドシウスを唆すに至ったのです。彼は【契約】の獣と化し、城へと乗り込み首謀者の【契約者】と戦い、そして勝利しました」


 あれを勝利と呼んで良いものだろうか。男を退けたと言う事実だけを見れば勝ちである筈だが、私の中でアレは白星でも黒星でもなかった。


 警護分隊分隊長殿に続き、騎士団長殿が証言台へと立った。


「騎士テオドシウスは、あの混乱の中にありながら、自らの騎士道精神に則り、最善の方法を模索し、そして一人戦い抜きました。彼の強い精神力と、日頃の鍛錬あってこそ、この国家反乱事変は解決の道を辿ったのです。若く、健全な精神を持ちえたこの青年を、この騎士を失う事は我が騎士団、そして国家の損失に繋がるでしょう。彼の力を畏怖する方々。彼の身柄は騎士団で監視、管理されると思って頂ければ良いでしょう。もし彼が道を違える事があれば、我が騎士団が、私が、全力を持ってそれを阻止しましょう」


 騎士団長殿のお言葉に、胸が張り裂けそうだった。鉄格子越しに聞いたお言葉と同等に、それは騎士団長殿の思う本心である事が分かる。騎士団長殿になら、白銀騎士団になら身を置いても大丈夫だろうと思える。それが監視であり、管理の一環であっても、先輩騎士や同期たちは私を仲間として見てくれるだろう。不貞の私にも、居場所を与えてくれるだろう。


 ただ私は胸の内で深く深く感謝した。


「判決は、民による投票によって採決される。本日はこれにて閉会とする」


 裁判長の言葉で裁判は終わり、私はまた騎士団の警護の元、塔へと再び身柄を幽閉された。




「お疲れさん」


 再び鉄格子の奥へと座った私を労ってくれた看守は、数日前にも見張りとして立っていた第一分隊に所属している騎士だった。


 予定通りなら、私はこの数日後に行われる国民投票によってその進退が決まる。極刑は免れたいところである。


「何か入用か?俺はこの後交代で、夜の当番のヤツに持たせてやる事が出来る」

 言った騎士の顔は労いの表情とも、餞の表情にも見えた。


 彼は、きっと私を拒絶する方に投票するだろう。何故か確信を持ってそれを感じた。彼は、私に恐怖している。私の言葉に共感を抱き胸に秘めながら、私と言う存在に恐怖している。彼自身もその答えに揺れているのだろう。自分より幼い騎士に尊敬とも知れない感情を抱き、立派な未来を夢見てくれる。しかし禁忌の力を持つ【契約者】と言う存在に、魔物を飼い従えている存在に恐怖し、排除したいと願う。


 どちらも、素直なヒトの考えなのだ。それを責める事も、弁明する事も出来ない。


『なあ坊や』

『ヒトは、恐れから逃げる事は出来ない。君もそうだった。死の恐怖から逃れられなかった。だから、此処にいる』


 恐怖とはヒトの本質だ。恐怖を感じるからこそ、ヒトは考え、それを退けるために工夫し、安全に生きる道を選ぶ。そうして人々は生きながらえ、文明を造り上げて来た。


『淘汰されるんじゃないよ。私は、人々の生活の中から飛躍した。力を持たない者たちに危害が加わらないように、同じ力ある者と共に往くだけの事さ』


 表向きで逡巡して見せ、私は堂々と嘘を吐いた。


「……もし、手配出来るなら、葡萄酒と干し肉が欲しいです。ナッツでも良いです、お願いします」

「そんなもので良いのか?なら、夜の当番に持たせるよ」


 ありがとうございます、と微笑んで、私は一つの計画を脳裏に組み立て始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る