第22話 真実と嘘

 その後三日、牢の格子越しに事情聴取と言う名の尋問が続いた。質問の内容は変わらない。


『大臣たちとの間に共謀はなかったのか』


『【契約】をした時の詳細を』


『あの男たちの行方は知らないのか』


 私は全て同じ言葉を繰り返した。ただ一つ、彼らの行方について嘘を吐き続けて。


 あの事件から十日。狭い牢屋の中で過ごす日々はあっと言う間に飽きた。差し入れられる本も読み尽し、小さな格子窓から眺める空は青く高く、時折聞こえる民たちの喧騒に背の落ち着かない日々を過ごした。


 その日、城では国王が民に向けて演説を行った。


 この度の騒動の経緯、首謀者、解決へと導いた騎士の存在、そして国に根を張っていた不正の存在を明らかにした。勿論民の動揺は大きい。しかし自分たちの生活が危機に晒されたとあって、民の目は一点に注がれていた。


 この騒動で誰を罰せれば良いのか、と言う一点。


 騒動を起こした火の民か、騒動に乗じて禁忌の力を手にした騎士か、国の奥で不正を働いていた大臣か。この国の示す正義は、何処に向けられているのか、と。国民は問うていた。


 国王は仰られた。


「我々の法と秩序に則って、それを悪と裁く事が出来る件から順に、国民の皆と共にそれを判断して行きたい。この国は民と共に新たに歩み出すのだから」


 言って国王は先日から続いていた大臣たちの取調べ記録を国民に開示する事を約束した。今回の罪人がかけられる裁判の最終審判は、国民の投票によって採決される事も同時に提案された。開示される記録には、私の取調べ記録も勿論含まれる。


 私は、民によってその後の進退を決められる事になった訳だ。


 それがどう作用するかは分からない。騎士団長殿や国王のお言葉も、民たちの多数決の前に効力を失うかもしれないと言う事だ。尽力して下さった騎士団長殿の誠意の声も、民には身内贔屓に聞こえてしまいかねない。


『幾ら気を揉んでも、もう決まっちまった事は覆んないよ』

『……ああ、私は、私が護ろうとした民を信じるしかない』

『そうさ、坊やはそうでなくちゃいけないよ』


 私が騎士として国に仕え、護りたかった民、その平和な生活。私の働きに対する民の答えが出るのだ。


 彼女の声を聞くと、私の中に光が灯るような気がした。あの男によって引かれ、あの少年によって背を押された道を進む為の明かりだ。踏み外さないように、その道を真っ直ぐ進む為の確かな明かりが灯る。


 ほんの僅かな明かりは、騎士団長殿のお言葉や、分隊長殿のお言葉にいつでも揺らぎ、消えそうになる。


 けれど、決してその明かりは絶える事は無い。彼女が私の中にある限り、私が【契約者】である限り、決して絶える事は無い。私のこの先は、もう決まっているのだ。

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