第10話 城の前で
城門前に到着した我々を迎えたのは、警備分隊長殿が話をしていた顔を隠した男たちだった。
「騎士団の者たちか……去れ、今貴様たちには何も出来ぬぞ」
「南の小国の民よ、私はこの国の王立騎士団、白銀騎士団団長である。貴殿らを逆賊と決め付けたくは無い。話し合いの場を持ちたい。貴殿らの長に話を通して頂きたい」
「国王の犬の言葉に貸す耳は持ち合わせていない!即刻立ち去れ!」
「ならば一つだけ答えよ!王は、国王は無事であるか?」
「……貴様らにくれてやる言葉など無い!」
去れ、と再び覆面の男たちは口にした。チリリと首筋があわ立った。何だ?これは何だ?それは引力のように私の視線を城から引き剥がした。振り返った先に、城へと続く街道を行進する一兵団が見えた。
「団長!教会兵団です!」
何より先に言葉が出ていた。日の下で見る頭部を覆う兜と、灰色の外套は明るい昼間だからこそ感じる不気味さを持っていた。
「こんな所に居たのか騎士団長!」
一団の中央から兵を割って現れたのは丸々と肥えた大臣の一人だった。のしのしと歩く姿は昨日見てからずっと滑稽に思っていた。
「私の護衛をしろと散々言っただろうが!教会兵団も到着したのだ!早く兵を率いて策を練るのだぞ!」
ほとんど相手に手の内を晒す様なこの行動、発言が信じられない。我々が平和的解決を望んでいると言うのに、何故対立姿勢を見せるんだこの人は!
私と同じ事を考えていたのだろう、団長殿が苦虫を噛み潰したような顔で大臣殿を睨み付けた。
「大臣殿!我々は戦いに来たのではありません!平和的解決を望んでいるのが、お分かり頂けませんか?」
「ええい、黙れ黙れ!貴様は早く私を守る任に就けばいいのだ!」
大臣がこれでは埒が明かない、と思った時だった。
『城の前で吼えおるわ、国を食い散らかす害虫よ』
わぁんと空気の震え、耳の奥に直接声が響いた。首謀者の、あの男の声だ。
『城に近付く事は許さぬ。即刻立ち去るが良い。オレが手を上げぬ内にな』
それは地の底から響く悪鬼の声にも、天から降り注ぐ神の御使いの声にも聞こえた。
「騎士団長、此処は一旦……」
団長の横に居た騎士がそっと耳打ちした。
「仕方あるまい。門番の兵たちよ、今は退くが、貴殿らの長と必ずや合間見える為の場を作ろう。そう、伝えてくれたまえ」
団長の真摯な態度に、門番をしていた覆面の男たちが少しだけ戸惑ったように見えた。相変わらずなのはコッチだ。
「私の城を乗っ取った逆賊どもめ!いいか、貴様ら全員絶対に始末してやるからな!全員打ち首じゃ!」
罵りの言葉を吐いて、大臣殿はまた教会兵団の中にそそくさと身を隠してしまった。
「退くぞ!」
騎士団長殿の言葉に、我々は城を背に歩き出した。
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