第9話 城を目指して
街の人々からの朝餉の配給を受け、剣の稽古に素振りを一頻り終えた頃。騎士団長殿と分隊長殿二名、警備分隊長殿が集会場を訪れ、騎士たちは各隊毎に講堂へ整列した。整列した白銀騎士団第一分隊から第三分隊へ、分隊長殿から本日の対策予定が伝えられる。
「我々白銀騎士団第三分隊は、警備分隊と共に民の避難援助を行い、また昼餉と夕餉配給の為の食糧確保に商店を回るぞ」
流石に民の施しを受けてばかり入られないと言う事だ。商人の元へ行き、借用証文と引き換えに食料品を借りて来て、この件の解決後に代金を払うと言う訳だ。これには利子が付くから、我々騎士団は早急な事件解決が望まれる。
「えぇーと、それから……あぁーテオドシウス!アルブレヒト=テオドシウス!貴様は騎士団長殿の交渉隊へ編入だ」
「は、はい!」
そうだ、昨晩騎士団長殿に命ぜられていたんだ。私如きが力になれるとは思わないが、団長殿たっての指名なのだから、断る道理がない。
「数名ずつ三班になり、内一班は食糧確保にあたれ!では、解散!」
「アルフ!すごいじゃないか、交渉隊に抜擢だよ」
「凄くねぇよ馬鹿!ワザワザ敵の本陣に行くんだぞ、むしろ不運だろうが。おい、絶対帰って来いよ。まだ剣技稽古で勝ち越してないんだからな」
年上の騎士仲間がそう激励を飛ばして見送ってくれた。彼との稽古は十八勝十敗三引き分けと勝ち越している。先に二十勝した方がワインを奢る事になっているから、絶対に後二勝必要なのだ。
「大丈夫。すぐに帰って来ます」
見送りに笑顔で答えて、私は隊を離れた。
白銀騎士団第一分隊では、団長が信頼した剣と魔法のエキスパートが数名選抜されていた。同じ白銀騎士団に所属する騎士でも、第一分隊の騎士は顔つきや雰囲気が違う。年齢層も分隊の中では高く、歴戦のもののふが集うのがこの第一分隊だ。
「白銀騎士団、第一分隊長殿にご報告申し上げます。第三分隊より編入のアルブレヒト=テオドシウス、只今到着しました。合流の許可をお願いします」
圧倒されそうな雰囲気を蹴散らすように、私は腹の底から凛と声を出した。同様に凛とした顔で団長殿が返答して下さった。
「ご苦労、アルブレヒト。キミの編入を許可しよう。彼が昨日、渦中の首謀者と対峙した勇気ある騎士だ。今日の作戦に同行してもらう、みなよろしく頼むぞ」
「はいっ!」
分隊の全員が一糸乱れぬ敬礼と返事を返す。この統率力、やはり第一分隊は違う。憧れと畏怖にもにた気持ちで背筋がぴんと伸びる。
「よろしくお願いします」
下げた頭と、発した声が震えていないか不安だったが、それも杞憂に終わった。
「こんな子供が、アレほどの脅威を前に勇敢にも剣を取ったと聞いたぞ。今日も力になってくれ」
選抜隊のリーダーだろうか、一人の騎士がぽんと肩を叩いて激励の言葉を下さった。
「はい、必ずや脅威を退け、我が国に平和を」
「頼もしい限りだ。行きましょう団長!」
「うむ。交渉隊は私に続け!」
騎士団のコートを翻し、団長の後に隊列が続く。私は隊の殿の前に並んで隊に加わった。進める足は軽やかだったが、街の中を通り、城が近付くにつれて心臓が早鐘を打ち出した。街全体にあの男の魔力が漂っている、あの男の監視下にある。そんな不穏な空気を感じた。城の上空に浮かぶ魔法陣に目をやって、今朝のあの光を思い返す。
男の語った悪とは何か。男の真意が知りたい。口の中が乾いて、思わず喉を鳴らした。
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