第3話 森の中で
気が付くと、私は城から遠く離れた郊外の森に倒れていた。騎士団の何人かが同じように周囲に倒れており、城から強制的に空間移動をさせられたと思い至る。
彼らの足元、そして私の足元には人一人がすっぽり入れるだけの魔法陣が今だ淡い光を放っており、予め仕込まれていた事だったと察する。そしてその踏み尽くされた足元の草に違和感を感じ、此処に私たちを飛ばしただけではないと言う事にも気が付いた。
此処に居た者たちと、城内の私たちを入れ替えたのだ。周囲を見渡すと、あの場にいた騎士団員以外の人間が大勢見られた。
城中の人間と、そして予めこの場所に待機していた男の仲間とを、一斉同時に入れ替えたのだ。男の、そして【契約】の力の凄さを痛感し、ひやりと背筋が凍った。
「衛兵!えーへいは居らぬかぁぁ!」
けたたましい声と共に、豪奢な服で着飾った王の家臣たちが周囲で倒れている騎士団の者を蹴り飛ばしていた。
「近衛騎士団の者は居らんのかぁ?ワシを守れ!ワシを誰だと心得る!」
その声に目が覚めたか、騎士団員が徐々にその統率を取り戻そうとしていた。
「白銀騎士団、第一分隊!点呼ォ!」
第一分隊の分隊長殿の号令が聞こえる。素早く第一分隊はその統率を取り戻したようだった。私は周囲に倒れる仲間たちに手を貸し、何とか第三分隊の集団へと合流した。分隊長三人が集まり、暴れる家臣たちを何とか宥めて現状の把握を行った。
この森に飛ばされたのは白銀騎士団率いる王国騎士団員約百名と、王家の家臣たち重役が十名程。百人以上の人間を一瞬にして移動させると言う、契約の力の強大さを目の当たりにし、冷静になった今ただただ恐怖に肝が冷えた。よく私はアレに剣を放ったものだ。
その約百十名のうち、魔道転送の影響を受けて気分の優れない者と、城での交戦で魔力を跳ね返されて体の制御すらままならない魔道騎士隊の者が約半数。実質、五体満足に動けるのは白銀騎士団の約三十名程度だけと言って間違いなかった。
あの男に作戦勝ちをくれてやるのは、私たち王国騎士団の警備の甘さを認めるようで酷く癪に障った。最後まであの男と対峙していた責を感じ、分隊長殿たちに進言を申し出た。
「では、君はその招かれざる客……【契約者】によって、この場所にいた奴の手下と交換転送された、と。そう考えるのだね?」
「はい。この魔法陣は転送用の物と記憶してあります。ただし、通常一度にこれ程大量の転送を行う事はありませんが……」
男が訪れた時の状況や、契約獣召喚の瞬間、その強大な魔力によって魔道騎士団の捕縛方陣が効かなかった事、そして転送の瞬間までを掻い摘んで話した。
「なるほど。良くそれだけの場に居合わせて生還した。貴君の活躍は必ずや国王に届けよう」
白銀騎士団第一分隊長殿(この方は実質、王国騎士団の団長殿だ)が私の肩に手をやって、お褒めの言葉を下さった。歓喜と畏怖に似た感情に背筋が震え、ありがとうございます、の声も震えた。
団長殿は周囲の約百名以上を一瞥し、声高らかに号令を飛ばした。
「白銀騎士団第一分隊、第三分隊!内、自力で軍行の可能な者!城へ戻るぞ!第二分隊は体調不良の者達の護衛だ!危険と判断するならば森で一晩を明かした後、城へ向けて出発する事!」
流石、的確な判断だ。日は今だ高かったが、魔力を返された魔道士達の、特に耐性のない者に至っては丸一日動けなくなる事もある。その場合は無理に連れて行くのではなく、体力・魔力の回復を待ってから行動を開始した方が、それを護衛する者にとっても安全だ。
「ワシは、ワシは行くぞ!こんな薄暗くて汚い森の中で一晩なんて、真っ平御免だ!」
「わ、私もだ!私も行くぞ!」
団長の号令に喚き立てる家臣たちの言葉に、ふと周囲の森へと視線を移す。
真っ直ぐに起立した木々の生い茂る森は柔らかに日の光を遮り、澄み切った空気はまるで絵本などに出て来る幻想の森を彷彿させた。この森の何処が汚いのだ。見る目の無い人間とは居るものだ。
そんな事を頭の端に考えていると、騎士団長殿もその家臣たちの言葉に思う所があったのか、
「どうぞそれはご自由に、大臣様方。ただし途中で歩けなくなろうとも、我らは我が王の為に立ち止まる事は致しませんが」
と素っ気無く言い放ち、白銀騎士団の第一分隊・第三分隊へと出発の号令を出した。
家臣たちは顔の真ん中にその筋肉を収縮させ、これでもかと団長殿の後姿に向かって舌を出していた。
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