第12話
このまま明日まで何もせず眠ってしまおうかと思ったが、寝ようにも眠れなかった。目を閉じると不安なことや、俺を不愉快にさせる人間の顔ばかりが浮かんでは消えていった。救ってくれそうな人や出来事は一つも浮かんでこなかった。
俺は鉄板でも埋め込まれたかのように重たく感じる体を起き上がらせてベッドの端に座って、両手で顔を覆い動悸がする心臓を鎮めた。動悸が治まったら部屋を出ようと思った。少しでも場所と気分を変えなければここで憤死してしまいそうなほど追い詰められていた。たった一人と一匹しかいない部屋なのに異様に空気が薄いように感じられるこの部屋から早く脱出したかった。
さぁ、外に出よう。そして誰かにこの気持ちをぶつけてやるんだ。幸せで能天気に生きている奴らに・・・。
不安と不満でいっぱいになっていた部屋から出た俺はアパートの階段を下りて一階まで降りたら膝に手をつき、背を丸めて部屋の中で吸っていた悪い空気を吐き出して新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
夕方に差し掛かった町は少しだけ冬に逆戻りしたような冷気に包まれていたが、その冷たい空気が頬に触れると火照った顔には心地良く感じられた。薄暗い町を歩きだした俺に行くあてなどなかった。だが立ち止まって途方に暮れているわけにもいかなかった。とにかく俺の中にある黒い塊を動かす原動力になってしまうこの鬱屈した気持ちを吐き出せるところを求めて、歩くことをやめないようにした。
二十分ほど歩くと最寄りの寂れた駅に辿り着いた。急行などは止まらない、通過されてばかりの小さな駅だ。夕方だというのに構内に人がいないがらんとした駅は外より冷え冷えとしている感じがした。駅に着いても人がいなければ何の意味も無い。俺はとりあえず一番安い運賃を払って切符を買い、ホームへ向かった。ホームまでの短い距離を歩くことさえ苦痛なくらい俺は疲れきっていた。なんとかホームに辿り着くと、線路に向かって据えられているベンチに腰を掛けて、また頭を抱えて靴の先をじっと見ていた。
このまま誰かが来るのを待つべきか、次に来る電車に乗って、人の多いところへ移動するべきかを考えた。その時ふと、頭を上げると正面から少し逸れたところに一人の女子高生が立っていた。いつの間にいたのだろう。全く気付かなかった。彼女はスマートフォンを見ながら、後ろ姿からでも退屈しているということが伝わってくるほど気怠そうな立ち姿で電車を待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます