第7話

 俺はずらりと並んでいる求人検索用のパソコンで自分の希望に沿った求人を探していく。

 

 先週見たものに新着の求人が少し増えているだけで大した変化はなかったが、俺でも応募できそうな求人を一件見つけることができた。中規模病院内での事務だった。以前俺がしていた仕事だったので、業務の流れや患者や医師との接し方も知っていたので採用される自信はあった。


 但し、求人の年齢制限は六十歳までと書かれているが、これがやっかいなのだ。この求人に限らないが、高校卒業から六十歳まで、と年齢層を幅広く記載してあっても男女ともに若い奴らから採用されることが多い。四十を過ぎている俺にチャンスはあるのだろうか・・。いや、まだ誰も応募していないかもしれない。諦めるにはまだ早いと自分に言い聞かせた。


 目当ての求人票を持って相談窓口で順番待ちの発券機から番号を受け取った。それから一時間経ってようやく職員と話す番が回ってきた。顔見知りではない初めて相談する男性職員だった。彼は職員用のパソコンで俺の登録情報を確認して、簡単な質問にいくつか応えた後、求人先へ連絡してくれることになった。


 「病院事務・・ですか。過去に勤めておられた経験があるんですね」


 「はい。いつでも面接に行ける用意をしているので、担当の方へ連絡をお願いします」


 「はぁ・・・」


 職員は手元の電話を使って求人を出している病院へ連絡をしてくれた。簡単な挨拶と面接希望者がいること、俺の性別や年齢を簡単に伝えていた。


 「はい、わかりました。お伝えしておきます。ありがとうございました。」


 電話を切った職員が申し訳なさそうに


 「この求人は新着のものなのですが、既に多数の応募があったので、募集は今日で締め切ったそうなんです。まだ相手側からそういう連絡がこちらに来ていなかったもので、お伝えすることができませんでした。申し訳ありません」


 「どうしても駄目でしょうか?履歴書を送るだけでも・・・・」


 「相手側がこう仰っている限り、こちら側はどうにもできませんね」


 「面接の人数制限なんて書いてありませんし・・」


 「どの業界でも事務職は男女ともに人気なんです。特に資格のいらない正社員の一般事務なら、ある程度限度を設けないと選考が大変になるそうなんですよ」


 「そんなぁ・・・・」


 「一般事務だと女性をメインで採用することが多いですし、年齢も若い方が有利なんです。病院だと特にその傾向が強く出るのではないでしょうか」


 「・・・・・・」


 「一度、職種を変更されてみてはいかがですか?営業職とかドライバーとか、男性が求められている職種はたくさんありますよ。未経験でも就職先で技術を習得して活躍しておられる方はたくさんいらっしゃいますから、どうですか?」


 俺は何も言えなかった。高校を卒業してからずっと事務しかしてこなかったのに、この齢から別の職種に就くなんて考えられなかった。もしその職に就いたとしても長続きしないことは目に見えていた。


 担当してくれた職員には曖昧な言葉で誤魔化して、そそくさとその場を離れた。

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