第5話

 時々、無差別殺人まではいかないくらいの罪を犯すことがある。それは黒い塊が動き出すときだった。その時がいつやってくるのかはわからない。その時が来るといてもたってもいられず、誰かを傷つけたくなる。


 目の中のスクリーンには白杖を突いた男がこちらに向かって歩いてくるシーンが流れている。過去のことなのに胸がどきどきする。今更になって緊張するのはなぜだろう。心のどこかで罪悪感があったからだろうか?スクリーンの映像は今までの映像より少し霞んで映っている。


 急に息苦しさを覚えて目を開けたら涙がこぼれた。目から頬、唇、顎へと流れた涙はくたびれたシャツに吸い取られていった。こんな時に限ってネコは来てくれない。寂しい時ほど放っておかれる。構いに行くと逃げてそっぽ向きやがるのだ。しかし愛想が悪くて可愛げのないこのネコを捨ててやろうとは思えない。甘えてくれなくても、構ってくれなくても、自分とは別の命が同じ部屋の中で生きていてくれるという温かい感覚を手放したくはなかったからだ。


 俺は涙をシャツの袖で拭い、再び目を閉じた。このまま一生目が開くことなく眠り続けられればいいのに、と思いながら枕に顔を埋めて無理矢理寝ることにした。息が詰まるほど静かな夜に気が狂いそうだった。

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