第4話

 買い物を終えて家で一息つくと無性にコーヒーが飲みたくなった。まだ仕事をしていた時からイライラするとコーヒーが恋しくなることがよくあった。その感覚が今、俺の体の中を駆け巡っている。せっかくコンビニに行って、手に取るところに目当てのコーヒーがあったにもかかわらず買わなかったことを後悔した。イライラしながら仕方なく、全てはあのゴスロリデブスのせいだと、責任を擦り付けて相手を呪いながら弁当を食べた。


 食後にタバコを吸うと一層コーヒーが恋しくなって困った。どうしても我慢できなくなった俺はゴスロリデブスに呪いをかけすぎたためか、やけに怠くなった体を引きずりながら駅前のコーヒーショップへ向かうことにした。


 コーヒーショップへ行くと決めた時、部屋の外に出て施錠しようとしたとき、店まであと一歩というところで赤信号に引っかかった時、計三回舌打ちをした。これもあのゴスロリデブスのせいだ。そうに違いない。畜生め。


 外でコーヒーを飲むときはいつも駅前のこの店にしている。愛想のいい店員がいるわけでもなく、特別コーヒーが美味しいわけでもなかったが、他店に比べて少し安いという理由だけで来ている。そしてもう一つ理由があった。それは店の大きなガラス窓から存分に通行人が眺められるというメリットがあるからだった。


 俺はコーヒーを飲みながら自分より弱そうな奴を見つけて心を落ち着かせたり、幸せそうな奴らを見つけては制裁を加える妄想をする。最低なことだが、これは自分の精神を安寧に保ち、憐れな自分を愛し続けるためには絶対に必要で尊い行為なのだ。この行為ができているから不幸で恵まれていなくても、まだ正常でいられるのだと思っている。もしこの行為ができなくなってしまったら、きっと俺はテレビで見るような街のど真ん中で暴れる無差別殺人犯になり果ててしまうだろう。世のため人のために俺は俺でいなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る