第2話
男にちょっかいを出して楽しかったのは一瞬だけで、家に着いたらまた暗澹とした気持ちが戻ってきた。アパートのドアを開けると黒い毛玉がのそのそと歩いてきた。俺の唯一の話し相手の猫だ。名前は決めていないから「ネコ」と、そのままの名前で呼んでいる。玄関で何やらにゃーにゃーと叫んでいる猫を部屋に戻そうと足を使って誘導する。
部屋の電気を付けると暗闇から急に味気ない部屋が現れた。部屋のカーテンは閉めたままだ。前にカーテンを開けたのがいつだったのか思い出せないぐらい俺の部屋のカーテンは機能していない。もともと日に当たりたいという欲がないからこれで問題はないのだ。
電気が付いていてもどこか薄暗い感じがする部屋の隅に置かれたベッドに腰を掛けて深い溜息をつく。帰ってきたところで特にすることはなかった。絶望的な暇さ加減にもう一度溜息をついてベッドへ横になった。目を閉じると今日一日に起こったことが目の中のスクリーンに自動再生されるかのように流れ始めた。
今日は無駄に早く目が覚めた。起きてすぐに小さな流し台にある蛇口からグラスに水を注いで一気に飲み干した。そしてテーブルに置いたままにしていた、乾燥してぱさついたパンを貪りながらテレビを見た。報道番組で数日前に失踪した女子高生が遺体で発見されたというニュースが流れていた。俺はほくそ笑んで、できるだけ身近な人間に単純な理由で凄惨な殺され方をされているといいな・・と、思ったことはよく覚えている。その後は何をしていたのかは思い出せない。きっと思い出せないくらい記憶に残ることをしていなかったのだろう。目の中のスクリーンには何も映らず、そこを飛ばして次の場面へ飛ぶ。
昼過ぎにコンビニへ昼飯を買いに行った。その途中でゴスロリの服を着たデブでブスな女を見たのだ。平凡なまわりの風景に溶け込むことを全力で拒否しているような不自然な存在に俺は軽い殺意を覚えた。なぜこいつは自分を客観的に見ることができないのだろうかと忌々し気にゴスロリデブスを睨みながらコンビニへの道を進んだ。
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