花の都の動物裁判

青星明良

第一幕 最初の事件~マルチーズ犬、法廷に立つ

伯爵夫人、暴行罪でマルチーズ犬を訴える🐕🐾

「ここが花の都、パリなのね! とってもステキ!」


 太陽の光でキラキラと輝く金髪と、エメラルドの宝石のような緑色の瞳がとても印象的な十三歳の少女マリーが、フランスの首都パリにやって来たのは、現在から三五〇年以上前の一六六五年春のことだった。


「姫様、きょろきょろしていると危ないですよ。ちゃんと前を見て歩かないと……」


 マリーのお世話係であるサラが、黒猫のニーナを両手で抱きかかえながらマリーを追いかけ、そう注意したけれど、どうやらマリーの耳にはサラの言葉は届いていないようだった。


天国まで届きそうな高さの教会の塔、とても大きくて白く美しいポン・ヌフ橋、お祭りのようににぎわっている市場、街路を行き交うたくさんの美しく飾り立てた馬車……。


 マリーにとって、何もかもが初めて見る物で珍しく、心がウキウキしていたのだ。


「昔、お父様が私に教えてくれたことは本当だったのね。お父様がおっしゃっていた通り、パリは満開に咲きほこる花のように美しく、夢の国に迷いこんだようにステキな都だわ。ねえ、サラ。あなたもそう思わない?」


「はい、そうですね、姫様。……でも、私たちは今、本当に迷子になっている真っ最中なんですから、そんなお気楽なことを言っている場合ではありませんわ。日が暮れるまでに目的地にたどり着かないと、一文無しの私たちは宿に泊まることもできません」


 生まれ故郷をわずかなお供とともに旅立ち、パリをめざしていたマリーは、途中で盗賊におそわれてしまい、有り金を全部奪われていたのである。しかも、お供はその時にちりぢりに逃げ、マリーのそばに残ったのは忠実な侍女のサラとペットのニーナだけだった。


 サラは、マリーよりも一つ年上の十四歳の少女だが、愛する主人であるマリーの身の回りのお世話だけではなくボディーガードもするために昔から剣術を習っていてけっこうな腕前だったから、おそいかかるたくさんの盗賊たちからマリーを何とか助け出し、やっとの思いでパリに無事到着したのであった。


「あれだけ恐い目にあったばかりなのに、姫様はのんきなんだから……。パリだって、油断をしていると、どんなトラブルに巻きこまれるか分かりませんよ。十分注意をしないと……」


「サラは心配性ねぇ。昨日、盗賊におそわれたのは、近道をしようとして山道に入ってしまったからよ。こんな大都市のど真ん中で、そんな簡単に不幸が降ってくるわけがないわ」


 おしとやかそうな見た目のわりにはなかなかタフでお気楽な性格のマリーが、翼を広げた鳥のように両腕を伸ばしながらクルクルと回転し、笑ってそう言った。しかし、その直後、


 バシャーーー!


 と、空から生ゴミが降ってきて、その真下にいたマリーは生ゴミの山に埋もれてしまったのだ。どうやら、マリーが立っていたすぐそばの建物の二階の窓からだれかがゴミを捨てたらしい。


「姫様! だいじょうぶですか!」


 おどろいたサラは、抱いていたニーナを足元に置き、「何が起こったの?」と言いたげにぼうぜんと立ち尽くしているマリーのもとにかけよった。そして、マリーの頭にのっかっていた魚の骨を手で払いのけると、二階の窓をキッとにらんで怒鳴った。


「こらー! 道ばたに家庭のゴミを捨てるとは何事ですかー! おかげで私の主人が汚れてしまったではないですかー!」


 しかし、だれも窓から顔を出さず、シ~ンと静まり返っている。知らんふりをするつもりのようだ。


「むきーっ! なんて無礼なのでしょう! ちょっと文句を言って来てやります!」


 カンカンに怒ったサラが腕まくりをして、生ゴミを捨てた犯人の家のドアをノックしようとすると、争いごとが嫌いなマリーがそれを止めた。


「ケンカはダメよ、サラ。それこそトラブルのもとだわ。たしかに、道ばたにゴミを捨てるのはよくないことだけれど、ゴミを捨てた人もわざと私にゴミをかけたわけではないはずよ。私の運が悪かったのよ」


「ですが、姫様……」


 呼び止められたサラは振り返り、マリーを見た。そして、ギョッとしたのである。でっぷりと太ったブタがマリーのそばに寄って来て、マリーの服にこびりついている野菜くずや果物の皮などの生ゴミを食べ始めたのだ。


「ひ、姫様! ぶ、ブタが……」


「え? うわわっ!」


 おどろいたマリーは飛びのいたが、ブタはブヒブヒと鼻を鳴らしながら追いかけて来て、なおもマリーの服についているごちそうを食べ続けた。サラが「しっ! しっ!」と手をはらい、猫のニーナも毛を逆立てながら「シャーっ!」と威かくしたが、ブタは食べるのに夢中でマリーから離れようとはしなかった。


 この時代の人はブタなどの家畜を放し飼いにしていることが多くて、マリーの故郷の城下町でも市場を堂々と歩くブタがいたから、マリーとサラも「どうしてブタがこんな街中に?」とは思わなかったが、それにしても丸々と太ったブタだった。


「こらこら、グルートン。マドモワゼル(フランス語でお嬢さん)がお困りだ。よさないか」


 ブタがまったく離れてくれなくて、どうしたものやらとマリーがうろたえていると、一人の少年があらわれ、ブタにそう声をかけた。このブタの名前はグルートンというらしい。


「人間の食い残しよりも、こっちのほうが新鮮でうまいぞ。さあ、食べな」


 マリーとほぼ同年代くらいと思われるその黒髪の少年は、トウモロコシをスッと差し出してグルートンの前でひらひらとちらつかせた。すると、グルートンはようやくマリーから離れ、トウモロコシをむしゃむしゃと食べ始めたのである。


「あの……。助けてくれて、ありがとうございます」


 マリーは、頬を赤く染めながら少年にお礼を言った。

 別に少年にひとめぼれしたわけではなく、小さな頃から城の中で侍女たちに囲まれて育ったマリーは、同年代の男の子と話したことがこれまでいっさい無かったため、少し緊張しているのだ。……それに、生ゴミまみれのこんなかっこう、恥ずかしすぎる……。


「気にしないでください、マドモワゼル。このトウモロコシは、最初からこいつに食べさせてやるために市場で買ったものですから。それにしても、災難でしたね。さっきの見ていましたよ。……パリはたくさんの美しい建物が建ち並ぶ花の都なのに、家庭のゴミを路上に捨てて街を汚してしまう人たちがたくさんいて、大きな問題になっているんです。このグルートンというブタは、そんなマナーの悪い人間たちが路上にまき散らした生ゴミを食べることで掃除してくれているんですよ。人間なんかよりもブタのほうがよっぽどキレイ好きだということです」


 少年はトウモロコシを夢中になって食べているグルートンの頭をなでながらそう言った。


「そのブタさんとは仲良しなんですか?」


「ええ! そりゃあ、もう! 僕は動物が大好きでして、動物を守るための仕事をしているぐらいなんですよ」


 マリーにブタと仲良しなのかと聞かれると、少年はうれしそうにそう答え、ブタの頭をわしゃわしゃ、わしゃー! とさらに激しくなでた。すると、


 ブヒーッ!


 あまりにもしつこくなでられてイラッとなったグルートンが怒り出し、強烈なタックルで少年を吹っ飛ばしたのである。男にしてはひ弱な体つきの少年は「ぎゃふん!」と言いながら路上にたおれた。


 少年をノックアウトしたグルートンは、ダウンしている少年を見下ろしながら、馬鹿にした感じで「ブヒ!」と一度鳴くと、少年が落として地面に転がっていたトウモロコシをくわえ、てくてくと歩いてその場を去って行った。


「かっこわる……。仲良しどころか、嫌われているじゃない」


 サラがあきれながらそう言い、少年を助け起こした。


「いてて……。背中が痛い。ケガしていないか、ちょっと見てくれないかな?」


「後で、自分で鏡でも使って確認してみたらどうです?」


 サラは、冷たくそう言った。自分の大切な主人である姫様になれなれしく話しかけてくる少年のことが気に食わなかったし、ブタにタックルされて涙目になっているような軟弱な男なんてタイプじゃないわと考えていたのである。


 数年前に亡くなったサラの父親は、かつてフランス国王を守る軍隊のひとつである近衛歩兵隊の隊長をつとめていた勇敢な男だった。だから、サラの理想のタイプは、父のように強い人なのだ。


「サラったら、冷たいわ。この人は、困っているところを助けてくださった恩人なのよ。ケガをしていたら大変だから、ちゃんと見てあげて。嫌なら私が見るわ」


「姫様がそうおっしゃるのなら……」


 マリーの言葉には逆らえないサラは、いかにも渋々といった顔つきをしながらそう言い、少年の背中を見てやろうとした。


 しかし、ちょうどその時、ビックリするような事件が起きたのである。


 突然、男の怒鳴り声が近くでして、おどろいたマリーやサラ、少年は「いったい何だろう?」と周囲を見回した。怒鳴り声は、どうやら、マリーたちから少し離れた場所にとまっていた馬車の中からしたようだ。


「こら! バカ犬! 大人しくしろ! あっ、痛っ! くそっ、噛みやがったな!」


 キャン、キャン、キャン! と、犬の鳴き声も聞こえる。犬が馬車の中で暴れているのだろうか? マリーたちがそう考えて馬車をじっと見つめていたら……。


「きゃーーーっ! い、犬が飛びかかって来たわーーーっ! 助けて~!」


 シルクのように美しい毛を持ち、シッポにピンクのリボンがついている小さな犬が馬車から飛び出て来て、たまたまそばを通りかかったド派手な服装の貴婦人の顔にダイブしたのである。ビックリ仰天した貴婦人は、ドターンと大きな音を立てて、すっ転んでしまった。


「まあ大変! だいじょうぶですか?」


 マリーたちがかけつけると、貴婦人は「犬を……犬をどけてちょうだい!」とヒステリックにわめいた。


「こんなにも可愛らしいマルチーズなのに、そんなにおびえなくても……」


 少年はそう言いながら、貴婦人の顔の上でお座りしていたマルチーズ犬を抱き上げた。そして、「おお、よしよし。いい子だ、いい子だ」と、マルチーズに頬ずりをして柔らかな毛の心地良さを思いっきり堪能しようとした。


 マルチーズは「うざこいなぁ」と言わんばかりに抵抗して暴れ、少年の腕からするりとぬけ出し、マリーの足の後ろに隠れた。


「動物が好きだと言うわりには、動物には嫌われやすいんですね、あなた。それにひきかえ、姫様はこのワンちゃんになつかれたみたいですね」


 サラの言う通りで、マルチーズ犬はマリーの足に体をこすりつけて、「こんにちは!」とあいさつしているようだ。マリーは昔から動物から好かれやすい女の子なのだ。


 しかし、マリーのそばにいた飼い猫のニーナがヤキモチを焼き、マルチーズ犬に「ふしゃー!」と威かくすると、マルチーズ犬も負けじと吠え返し、マリーの足元で猫と犬の大乱闘が始まりそうになった。あわてたサラと少年が二匹を引き離したけれど、少年に抱き上げられたニーナが、


「気安くさわらないでよ!」


 とばかりに怒って、少年の顔を前足の爪でシャー! とひっかいた。少年は「ぎゃっ!」と悲鳴を上げて尻もちをつく。とことん、動物に嫌われる体質のようだ。


「ニーナ、乱暴はいけませんよ。ワンちゃんも大人しくしてね?」


 マリーは、右手でニーナの頭を、左手でマルチーズ犬の頭を優しくなでて、そう言った。すると、二匹はさっきまで興奮していたのがウソのように大人しくなり、「にゃお~ん」「く~ん」と、甘えた声を出したのである。少年は、それを見ておどろいた。


「すごいなぁ。動物にあんなにもなつかれて、本当にうらやましい。まるで魔法のようだ」


 少年が感心しながらそうつぶやいていると、マルチーズ犬のせいで転んでしまった貴婦人がまたさわぎだし、マリーたちに怒鳴った。


「ねえ、ちょっと! いつまで私をほったらかしにするつもりなの? 早く助け起こして! こけた時に右足をくじいてしまって、一人では起き上がれないのよ!」


「ごめんなさい。今、助けますね。サラ、手を貸して」


「姫様、私一人で十分ですわ。お任せください」


 マリーに対して無礼な口のききかたをした貴婦人をキッとにらんでいたサラは、そう言うと、貴婦人の腕を片手でぐいっと引っ張り、わざと乱暴に助け起こした。


「痛い! 痛い! 腕が痛いわ! あなた、華奢そうな見た目のくせに、なんて怪力なの!?」


「……毎日、剣術のけいこをしていますので」


 ムスッとした表情でサラが答える。主人であるマリーに対しては過保護すぎるほどお世話をして、尽くしまくる忠犬のようなサラだが、自分の主人を馬鹿にしたり、軽く見たり、なれなれしく声をかけてくる者に対しては凶暴な番犬のように敵意と警戒心を向けるのだ。


「マダム(奥様)、ケガをしたのは足だけですか?」


 ニーナにひっかかれてヒリヒリ痛む頬をなでながら少年がそうたずねると、貴婦人は、


「痛むのは足だけじゃないわ! 頭に大きなたんこぶができたし、腰やお尻もズキズキと痛いのよ! これじゃあ、今夜、王様の宮殿で行なわれる舞踏会にも出席できない! この無礼な犬の飼い主に治療費や慰謝料を払ってもらわなくちゃ!」


 キンキンと耳にひびく金切り声でわめき、犬が飛び出して来た馬車の車輪をゲシゲシと蹴って「飼い主、出て来なさい! さもないと、馬車に火をかけるわよ!」と物騒なことを言った。「足が痛いんじゃなかったの……?」とサラがボソッとつぶやいたが、興奮している貴婦人の耳には届かない。


「そ、その犬はオレのペットではない!」


 馬車からハンサムな若い貴族がそう言いながら出て来ると、貴婦人は「まあ! あなたはオーノア伯爵じゃない!」と、おどろきの声をあげた。どうやら知り合いだったらしい。


「おや、そう言うあなたはシャラント伯爵夫人じゃないですか。先日の舞踏会ではお世話になりました」


「あなたの犬ではないとは、どういうことですか?」


「急に馬車に飛びこんで来て、オレの手に噛みついたんですよ。どこのだれが捨てた犬かは知らないが、おそろしく凶暴な犬で……」


「そうだったのね……。だったら、この犬自身に、私をケガさせた責任を取ってもらうわ」


 シャラント伯爵夫人と呼ばれた、中年の貴婦人はそう言うと、マリーとサラがビックリするような宣言をした。


「このマルチーズ犬を暴行の罪で裁判所に訴えます!」


「え!? ど、動物を訴えるんですか? 犬ですよ? 法廷に立たされても、ワン! しか言えませんけれど……」


 シャラント伯爵夫人が笑えない冗談でも言っているのかと思ったマリーはそう言ったが、シャラント伯爵夫人の怒りに満ちた顔を見ると、どうも大真面目のようだとわかった。


「今すぐ裁判所に行かなきゃ! そこのあなた! 犬を連れて、私と一緒に裁判所まで来てちょうだい!」


 シャラント伯爵夫人は、マルチーズ犬を抱いているサラにそう言ったが、突然の意味不明な展開に困惑しているサラは「姫様、どうしましょう? 変な事件に巻きこまれてしまいました……」と言いたげな困り顔をして、マリーを見つめた。でも、マリーだってどうしたらいいのかわからないので、眉をひそめて黙ることしかできない。


「何をもたもたしているの! 一緒に来てくれないのなら、私が首根っこをつかんで犬を連れて行くわ! その犬を私に渡して!」


 怒り爆発してもうどうにも止まらないシャラント伯爵夫人は、ぐわっと手をのばし、すでに大人しくなっているマルチーズ犬の首根っこをつかもうとした。しかし、動物好きの少年が犬と夫人の間に割って入り、「待ってください!」と言ったのである。


「動物を裁判にかけるというのならば、僕の出番だ。この可愛らしいワンちゃんの弁護は僕がしよう」


「動物を弁護ですって? あなたは何者なの?」


「僕の名前は、シャサネン・セギエ。動物の弁護を得意とする弁護士だ」


 犬が裁判にかけられると思ったら、次は動物の弁護士の登場だ。

 「いったい何がどうなっているの?」と、マリーは首をかしげるのであった。





    🌽🐖次回「マルチーズ犬、法廷に立つ」につづく🐕🐈




<ちょっとディープな用語解説>

※このコーナーでは、児童小説として書かれたこの作品内に出てくるキーワードをいくつかピックアップして、もう少しディープなパリ、動物裁判、フランス史の用語解説をしていきたいと思います。

動物裁判に関する残酷なエピソード、過激&下品な歴史エピソードも含まれますので、そういった内容が苦手な方はご注意ください。



〇空から生ゴミが降ってきて……

当時のパリの日常風景。生ゴミや汚物は基本的に家から路上へポイ捨てする。19世紀後半ぐらいまでは、パリの住宅には十分なトイレ設備が無く、おまるみたいな物に汚物を入れてたまると捨てていた。

当然、パリは汚物や生ゴミが散乱していて、そんな汚物まみれの道を歩くために生まれたのがハイヒールだったりする。花の都とはいったい……。

パリの汚れっぷりは、作者の別の作品『カルチェ・ラタンの魔女』にも出てくるので興味のある方はぜひ。

ただ、昔のパリも、ブルボン王朝の初代国王アンリ四世が作ったポン・ヌフ橋や国王広場(現・ヴォージュ広場)、歴史ある教会や宮殿など、美しい建造物がたくさん存在する見どころの多い古都であったことは確かなので……(汗)



〇でっぷりと太ったブタ

作者の別の作品『カルチェ・ラタンの魔女』にもパリの街を闊歩するブタ・獅子王が登場するが、これは作者がブタ好きだから登場させているわけではない。本当に、当時のパリにはブタが街中をうろうろしていたのである。

当時のブタは牙がはえた黒豚で、現代人の我々が考えるよりもずっと獰猛だったらしい。どれぐらい凶暴かというと、ある村の子供がブタに食い殺され、そのブタは動物裁判で処刑されたという記録がある。(まあ、そういうブタは狂犬病にかかっている場合が多いが)。

そんなブタを当時のパリっ子たちは放し飼いにしていたので、花の都には街を我が物顔で歩くブタたちがあちらこちらにいた。

当然、そんなどでかいブタが街を走り回っていたら、馬車や歩行人とぶつかって事故の原因になったりする。また、子供たちがブタに襲われる危険性もあった。タックルされたら、大人の人間でもただではすまないだろう。

だから、街のいたるところで傷害事件や事故を起こしたブタは、動物裁判の記録にたびたび顔を出すのである。

ただ、作中にもあるように、ブタたちはパリ市民が路上に捨てた生ゴミや汚物を食べてくれていたので、「パリの掃除屋」としての役割も果たしていたらしい。



〇トウモロコシ

アメリカ大陸に到達したコロンブスが、カリブ人が栽培していたトウモロコシを持ち帰り、ヨーロッパに伝わった。



〇僕の名前は、シャサネン・セギエ

この物語の主人公シャサネン・セギエには、実は大法官ピエール・セギエの孫であるという裏設定がある。

ピエール・セギエは、ルイ十三世、ルイ十四世の時代に大法官をつとめたフランスの「法の番人」。ルイ十三世の時代には宰相のリシュリュー枢機卿に従い、ルイ十四世が幼くして即位すると、王母アンヌ・ドートリッシュが摂政として権力を握れるように助力した。

この物語の1665年時は77歳でまだ存命だが、ルイ十四世の寵愛を失っていて政治的影響力は無く、文芸の保護になど力を尽くしていた。

祖父のピエール・セギエは孫に自分みたいな立派な大法官になってもらいたいと思っているが、シャサネン本人は動物弁護士として動物を守ることに夢中……という裏設定なのだが、あくまでも裏設定なので物語にピエール・セギエは出てこない。

ちなみに、「シャサネン」という名前は、実在した動物弁護士「シャサネ」から拝借している。

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