文芸部員、計画

 1 ゴールデンウィーク、登校


 ゴールデンウィーク……とてもいい響だ。大型連休のなかでも課題も何もない有意義に過ごせる。

 そんな有意義な大型連休、なのに……なのに、なぜ俺は午前11時の昼前に第3理科室にいるのだろうか。

 まあ、そう疑問に思うがすぐに思い当たる節があるのが思い付くあたり憎らしい。

「高樹、なんで補習なんだろう?」

 ため息混じりに園田はぼやいた。

 そう、全ては高樹が悪いのだ。


 日は遡り、ゴールデンウィークの前日だ。その日のホームルームは、先生の怒号が聞こえた。学年主任の受け持つクラスと言うだけあって、生徒も優秀な人が集められてると思うだろう。ま、この俺がそのクラスに属してるってだけで察するだろ?

 実際は、優秀と思いきや授業の提出物を提出しない生徒が10人以上いるクラスだ。

 そんなことを各教科担任に指摘されたのだろう、学年主任の担任は、女性のはずが女性らしからぬ声で怒っていた。

 そんな10人以上の生徒の筆頭が高樹だった。

 そしてそんな高樹も、今度ばかりはと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた。

 そんな一連の騒動があり、高樹を筆頭に提出物を出していない生徒はゴールデンウィークまるまる補習になったのだ。

 それから話は、勢いも衰えず高樹が補習で学校に行く羽目になることが文芸部でも持ち出された。

 高樹が補習で学校に行くなら、恐らく高樹に想いを寄せる園田が学校に行くということになり、園田が行くなら私も行って部活もやりたいと言うことで浅井が学校で部活を行うことになった。

 そして部活があるなら、必然的に俺が学校に行く羽目になった。

 全ては高樹が悪いのだ。

 そんな高樹は、補習で別の教室に行き補習課題を手伝うべく浅井も付き添いに行った。


 現状、今は俺と園田が第3理科室で文芸部の活動、何もしていないをしているのである。

「そう言えば、多田くんは補習じゃないんだね」

 な、失礼な。俺は、成績が平々凡々でも補習はしないことを目標にしてる人だ! 補習なんて面倒だし。

「授業も目立たず、黒板写して課せられた課題も期日には提出してるからな。補習は対象にならないことを目標としてるんだ」

「本当かな? 図書館の貸し出し期限は、いつもギリギリか期限過ぎた後、どさくさに紛れて返却してるでしょ?」

「バレてたのか!?」

「いや、むしろ意識して余裕もって返そうよ」

 ま、反省はしよう。

「そう言えば、F組って特進クラスだったよな。高樹から聞いたんだが、その中でも中学の成績がいい人が集まるんだったな」

 園田は、指に口をのせて唸り考え込んだ。

「確かに中学の成績で平均評定が4くらいの人が集まるけど、私からしてみればそっちの普通クラスの方がいいと思うけど」

「皮肉か?」

「いやいや、そんなんじゃないよ。でも平均で言えば多田くんこそいい方じゃない?」

 自慢じゃないが、俺の評定平均も4くらいだ。まあ、深久に入学してる時点でみんな4以上だろう。

「深久にいる時点で察してくれ。でも、特進クラスは評定4であっても落ちるだろ?」

「入試の点数が480以上ないと落とされるって言われてたわね」

 園田が自慢するかのごとく言う。

「そういえば以前から気になってたんだけど、多田くんの出身校って何処なの?」

「波多中」

 なんて淡泊な会話だろうか。基本的に会話を続けにくいと言われるが、それも反省点だろう。

「波多中って山奥の?」

 まあ、波多中は登下校も坂道だから山奥なんだろう。

「でも、この高校で波多中の人ってあまりいないよね」と園田が言う。

「そう言えば、知ってる顔はいない気がする。無頓着なだけかもしれんが」

「そんなことはないですよ。少ないですけど、波多中の人はいますよ」

 優しい声で笑うように浅井が言った。

 どうやら、補習の付き添いは終ったみたいだ。

「ゆいちゃん、お疲れ! あれ高樹は?」

 高樹の姿は第3理科室にはいなかった。

「それが、笹井ささいさん? に胸ぐら掴まれてどっか連れて行かれました」

 笹井? と思うと自然にさやか先輩と連想した。ああ、あの人か。

「実行委員会の副委員長だよ。2年生の笹井彩ささい さやか先輩」

 そう付け加えて言った。二人は納得したように、あぁーと頷いた。

「では、高田さんはいませんが文芸部の活動を……」

「ちょっと、いい? 多田くんと中学話してたらゆいちゃんの中学時代ってどうだったの?」

 話の腰を折られて少しだけむくれていたが浅井は、すぐに笑顔に戻った。

「珍しさで言えば私の方が珍しい進路ですよ。信濃女学院中等部です。中等部の皆は、共学の信濃学院高等部へ進級するんですけど、私は公立の深久に進学しました」

「信濃学院ってあの?」

「はい」

 信濃学院は確か、学校法人で私立わたくしりつだったな。

 長野では珍しい、私立で小中高一貫高で思春期故に生じる異性間トラブルでの学力低下の対策として中等部だけ男子校と女子校の分校化されていると聞いたことがある。

 完全一貫校ではないから、小学生から中学生、中学生から高校生の節目には進級か他の学校への進学が選択できるのか。

「お金持ち学校じゃん! でも、一貫校なのにどうして進学?」

 園田の質問に少しだけ困った表情で、俺の方を見つめた。

 いやいや、俺の方を見られても…………あ。

「それは諸事情と言いますか。家庭の事情と言いますか……一身上の都合、ですか? でも、高校で公立に行ったお陰で、親戚からは大学の進学の学費が3人分くらいまでは出せるようになったって言ってました」

 浅井が父親の報復の為に父親が嫌う小説家、浅井栄助の母校であるこの深久高校を進学した。浅井の学歴はあまり知らなかったが栄誉ある信濃学院の進路を変えてまで、こうやって小説家嫌いの父親に刃向かうように文芸部に入部してる。それは、自分の人生を賭けた覚悟なんだろう。

 その事情を説明したのは、この学校で俺だけだ。このことに関しては、他言無用だろう。

 なんと計画性に充ちた反抗期だこと。ま、何処の父親も同じようなものだろう。……身内の中でも嫌う人がいるというのは。

「ああ、ごめんね。詮索はするつもりじゃなかったんだ。じゃあ、話もすんだし部活にでも取りかかろう!」

「いえいえ、でもそうですね。時間は有限です」

 時間は有限……その言葉の裏は、彼女は焦っているのだろうか?

「部活動と言っても何するの?」

「今回はゴールデンウィークですし、連休明けには中間テストがあるので勉強会でいいんじゃないですか? でも、文化祭までの計画は立ててみませんか?」

 浅井は鞄から一冊のノートを取り出し黄緑色のペンで『活動ノート』と記入した。

「なんか、道徳の授業のグループディスカッションを思い出すね」

 懐かしい。あんな授業がここで役に立つとは。

「はい、では文化祭までの計画を立てましょう?」


「まあ、こんな感じでしょうか? 多田さんも見てください」

 つい寝てしまった。時間は、13時。

 どうやら、計画は立て終ったらしい。ノートを目の前に持ってこさせられ確認せざるおえなかった。

 文芸部の計画は、

 5月

 学校行事

 ・中間テスト

 ・校外奉仕活動


 部活動

 ・短編集執筆開始 >> 1人2話の1話目(~末日)

 ・末日 1話目部内発表会 >> 1話目未完でも可


 6月(梅雨)

 学校行事

 ・二年生、修学旅行(三日間)


 部活動

 ・15日目処 1話目完成発表会(部内)

 ・2話目執筆開始

 ・1話目 顧問による編集、改稿作業 >> 短期作業


 7月

 学校行事

 ・期末テスト

 ・夏休み終業式 >> 補習対象にならないこと!


 部活動

 ・15日目処 2話目部内発表会 >> 未完でも可

 ・末日 2話目完成発表会(部内)

 ・2話目 顧問による編集、改稿作業 >> 短期作業


 8月

 学校行事

 ・夏休み(~21日)


 部活動

 ・全体的なブラッシュアップ

 ・装丁会議 >> 決定項まで


 9月(上旬、最終納期)

 学校行事

 ・体育祭


 部活動

 ・原稿提出 >> 部長、副部長でword入力作業

 ・出版、発注 >> 部長、園田さんで手配


 10月

 学校行事

 ・文化祭(しんきゅう祭)

  10月7日~10月9日


 部活動

 ・文化祭

 なんて言えばいいかわからないほどに状況がわからなかった。

 ただ、一つ言うことは文化祭だけに焦点を当てた計画表にわかりやすいの一言だけだ。

「ごめん。寝てた……それで、わかりやすいしいいんじゃないか」

 ただ、一つだけ意見したいことはわかりやすい程に大雑把でいいのだろうか?

「二人で考えたんだ! まあ、細かいとこははしょってるけど、それは一人一人のスケジュールの都合だから」

 ああ、それなら大雑把でいいのか。細かいとこは個人でスケジュールに合わせてってことか。

「コホン。大雑把な計画ですが、今月は各自短篇を1話執筆してもらいます。今月末の発表会ですが、その時に完成させなくてもいいです。その日は、途中経過の発表と作品自体の意見交換になります」

 それまでに、1話を形にしないといけないのか。難しい課題だ。

「ここで1話目のプロットを考えろとは言いません。それより、目と鼻の先にある難関のテストを切り抜けましょう」

 そうやって今日の文芸部は、中間テストの勉強会になった。


 勉強会は、園田と浅井に教えてもらった。

 高樹は今日中に文芸部へ顔を出すことはなかった。

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