第13話 出会い
夢をみた。
イヌ耳の少女が俺に何かを言っているが聞こえない。
暗くて顔が確認できず、表情もうかがい知ることはできない。
ああ、死んだのか。
ふと、そう思う。
きっと彼女は俺を恨み、弾劾しているんだ。
「あの時助けてあげられなくてごめん。見捨てた俺の言葉を信用なんかできないかもしれないがもう二度と逃げない。恐怖で背を向け、戦わないことはしない」
俺は彼女に向けて謝罪した。
彼女は何かを言っているが聞こえない。
俺はそのまま闇に沈んでいった。
起きるとそこは見知らぬ場所だった。
ベットに寝かされ、起き上がるとあの魔法使いが隣でベットに体を預け寝息を立てている。
「目が覚めた~?」
そこには深い青色の髪のおっとりしたすごく若い女性がいた
「ここはどこだ」
「ここはバークレーっていう私たちの家よ~」
「私たち?」
「この子は私の娘なの~」
そう言うと寝息を立てる魔法使いの頭を撫でる。
そうかこいつはバークレーの経営者の娘だったのか。
というかどんだけ若作りしてるんだこの女は。
少なくともこの娘の年齢は17歳くらいだろ。
「この子から事情を聞いたわ~。助けてくれてありがとうね~」
「俺はどれくらい寝てた?」
「今日で3日目よ~。因みに今は朝10時よ~」
「ずいぶん寝ていたな」
「ごめんなさ~い、ギルドカードを勝ってに見させてもらったわ~」
「構わない」
ギルドカードを受けとると、レベルが34にまで上がっていた。9も上がったのか。
ふと、火傷がどこにもないことが分かる。
よくよく見ると折れていた腕の骨や肋骨も治っている。
「傷なら治させてもらったの~。特に問題はないと思うけど~」
ベットから降りて立ち上がって体を少し動かしてみる。
うむ、問題ないな。
「治してくれて助かる。後で金を払う」
「大丈夫よ~、娘を助けてもらったし~」
「いくつか質問がある」
「なにかしら~」
「俺が覚める前までの過程を知りたい」
魔法使いの母親が言うには下着姿の娘が現れ、ゴブリンキングに現れたと報告。
両親に今一人の冒険者が時間稼ぎをしているから助けて欲しいと頼んだところ、村の方でも山火事が起きたと騒ぎになり父親と魔法使いは急いでゴブリンキングのもとへ向かい、母親は魔法で雨を降らせながら村人と火を消していたところに全身大火傷で骨も折れた俺が担ぎ込まれ治療をしたと。
「あの時のリアちゃんを見せてあげたいわ~」
「ううっ、お母さんうるさいよ」
魔法使いが目を覚ます。
「起きたか」
「起きたんですね、良かったです」
まだ、半分寝ぼけているようで目をこする。
彼女の髪、寝癖がひどいな。
手ぐしでもしてやるか。
彼女の髪をすいていると
「な、何をしているんですか」
「寝癖がついているんで直してやろうかと思ってな」
顔を真っ赤にして後ろへ下がる。
そんなに驚かんでも、時々妹の髪を結うこともあって上手なんだが。
「仲が良くて羨ましいわ~」
魔法使いは小さく縮こまる。
「あなたに聞きたいことがあるんだけどいいかしら~」
「なんだ?」
「どうして火魔法使ったのか教えて欲しいわ~」
これはあれか、俺が炎魔法使ったと思われているのか。
ため息をつくと
「ゴブリンキングが魔法を使ったんだよ」
「本当~?」
魔法使いは驚いて俺を見る。母親は信じているのかいないのか分からない。
「ああ、確かに使った。俺はその魔法に焼かれて大火傷をした」
「そうなの~」
母親の方はそう言うと一瞬だけ目が据わったようだがすぐにもとに戻る。
魔法使いは嘘、ゴブリンが魔法使えるはずがないのにとか言っている。
「少し外を出る」
「そうね~、外の空気でも吸うと良いわよ~」
外に出ると、山火事の惨状が見てとれた。
すると、男が一人すごいスピードでやってくる。
技能スキル『加速』を発動しておく
「死ねええええ」
と叫びながら拳を握ると俺に向けて殴ってこようとしたので避けると同時に足を払う。
そのまま、男は顔面から地面へとダイブする。
おお、今までよりも早く動けるぞ。ちょっと感動。
「お父さん!?」
「あらあら~」
「なんだ、こいつお前の親父か。人に向かっていきなり殴りかかるとかやめさせろ。できないなら、首輪でもつけていろ」
「テメェ、避けんじゃねぇよ」
立ち上がって俺を睨む。
「ああ、何だよ」
「テメェだな。俺のかわいいかわいいそれはもう食べちゃいたいくらいかわいい俺の娘に手を出したのは」
「お前、俺のことを変態呼ばわりするよりもこいつどうにかした方がいいんじゃねぇか?」
俺は魔法使いに魔法使いの親父を指差しながら言う。
「それは分かっているんだけど」
「それがこの人の魅力なのよ~」
などと言っている。
「だいたい、テメェのせいで家が燃えたヤツがいんだよ。どうするつもりだ」
「そんな奴がいるのか」
俺は母親の方に聞く
「ええ、一家族だけですけどね~」
「それなら」
俺はバークレーに村長と家族を呼んで今回俺が倒したゴブリンキングとゴブリンのギルドでの討伐報酬を聞いたところゴブリンキング金貨1枚、ゴブリン8匹銀貨40枚と教えてもらった。
後、ゴブリンからのドロップアイテムはどれくらいで買い取って貰えるかは分からないとのことだった。
本当は15匹ほど殺したのだが、山火事で燃えたり、誰かが盗んでしまったらしくゴブリンの核石が回収できなかった。
次に火事で家が燃えてしまった家族に再建費用を聞いたところ金貨1枚で済んだ。
なので明日にでもギルドで金を貰ったら渡すと約束した。
「ずいぶん気前がいいんだね」
話が終わり、家族と村長を見送ると魔法使いが話しかけてくる。
「俺が火事を起こしたわけじゃないが、俺の戦いの結果生じた被害なら俺が弁償するのは当然だろう」
「低ランク冒険者はお金に強欲だってお父さんが言っていたからちょっと意外で」
「俺はそこいらの低ランク冒険者よりは金があるしな」
「そうなんだ」
すると、魔法使いの親父が俺らの間に入ってきて
「お前なんかにリアは渡さん」
とかほざく。もういい加減疲れた。
「ただいまー」
「あら~、お帰りリリちゃん」
「お帰り、リリ」
「お帰り、リリ。俺の可愛い娘」
変態親父が俺のを強調する。
リリと呼ばれた子は15歳くらいだろうか水色の髪をした女の子だった。
胸は魔法使いより大きいな。
「ん?リリ?どっかで聞いたような。ああ、お前が泣き叫んだ時に言っていたな」
「な、泣き叫んでなんかいないよ」
「お姉ちゃん、今回は仕方ないけど恥ずかしいからあんまり外で喚かないでよ。起きたのですね、安心しました。姉を助けてくれてありがとうございます。」
顔を真っ赤にして俺の言葉を否定する姉を半眼で見ると俺の方を向いて礼を言った。
「ずいぶんよくできた妹だな」
「でしょう」
魔法使いはあまりない胸を張り、妹は照れる。
「テメェ、あいつらに賠償したからって調子に乗るんじゃねぇぞ。お前のせいで3日前来るはずだった客が来なかったんだからな。それに3日も泊ったんだ、うちは一泊銀貨10枚だ、早く銀貨30枚出せや」
その様子に気に食わなかったのか変態親父が喚く。
いい加減、我慢の限界だ。
「おい、変態。お前、ここは『バークレー』っていう宿なんだよな」
「俺は変態じゃねぇ、フレデリック様だ。そうだったらなんなんだよ」
「俺は3日ほど前ギルドの受付の子にとある宿に予約を取ってもらった」
変態以外がどうやら気づいて止めに入ろうとするがそうはさせない。
「その子に説得されて俺はその宿へ向かっている最中にゴブリンに襲われている貴様の娘を助けてやった。それなのに貴様は恩人である俺になめた態度を取り、あまつさえぼったくろうとしている。」
「ぼ、ぼったくってなんかいないさ。」
「そうかそうか。俺はギルドの子から『バークレー』は銀貨1枚で泊まれる宿だと教えてもらった。貴様にいまここで銀貨30枚支払うなんて俺にとっては何の問題もない。だがな、後で『バークレー』で銀貨30枚をぼったくられたと被害届を出してギルドに対して慰謝料を求めるが良いよな。なんてたって、お前らは『バークレー』とは違う宿なんだろ。慰謝料請求書が届かなければいいな、因みに俺は精神的にも肉体的にもひどく傷ついたからな銀貨300枚は請求するか。」
俺は知っている。
ギルド経由で予約された宿で、宿側が客に対して明確な被害を出せばギルドがその責任を負う。
その時にギルドが支払った金額は宿へ請求される。
「そんなに請求できるわけないだろうが」
変態が叫ぶがもう遅い
「なにお前が叫んでいるんだよ。俺はギルドで信用が最もない『バークレー』に対して請求するんだ。お前には関係ないだろうが。さてギルドは俺と『バークレー』のどっちを信用するかな」
あのクソ王子が俺にやった手と同じで虫唾が走るがしょうがない。
いい加減、この変態に客がいかに大切なものであるかということを分からせてやらないと駄目だ。
変態親父の顔から血の気がなくなる。それを見ている母親や魔法使い、妹も顔色が悪い。
「あ、あのパパを許してくれませんか」
妹よ、そうは言うがな。
「あのね、君のパパは確かに優秀かもしれない。けれど、優秀だからといって人を見下したり気に食わないからといって排除すればいいだなんて考えは子供の考えだ。大人になれば嫌でも嫌いな人と付き合うことになる。それをこいつはいつまでもガキのように喚き、よりにもよってお金を払う客に失礼なことをした。君が俺に許しを乞うんじゃなくてこの男が俺に謝罪をすればいいだけなんだ。それだけのことをしさえすれば、俺はギルドに報告なんかはしない。分かってくれ」
俺はこの男がこの国でも有名なため厄介ごとを起こしても不問にされているとフェルミナから聞いていた。
だからこそ、こういうやつには誰かがきちんと言ってやらなきゃいけない。
大人のくせにいつまでも甘えた事言ってんじゃねえと。
妹は俺の言葉を聞くと黙って頷く。
俺に熱い視線を送っている気がするが気のせいだな。
「で、どうすんだお前は」
「お、俺は悪くない。悪いのはすべてお前だ」
俺はため息をつくと母親に視線を向けて
「こいつはもう駄目だ。こいつにしっかりと制裁を与えろ。そうすれば、ギルドへの報告はしない」
「分かりました~。しっかりと制裁を与えるのでご容赦ください~」
「な、何を言っているリネット。お前、そこのガキの言うことを聞くのか」
「ごめんなさい、あなた~。お金とバークレーのため~」
そう言うと母親が変態親父の顔を掴むと部屋を出て外へ向かった。
ひどく疲れた。
「ごめんなさい、うちのお父さんが」
「全くだ、なんだあの悪ガキがそのまま大人になったような奴は」
「あの、お名前を聞いてもいいですか」
妹が尋ねてくる。
「そういえば、聞いてなかった」
「お姉ちゃん、名前も聞かないでよく今まで話ができたね」
「母親が俺のギルドカードを見たから知っていると思ったが」
「ううん、私たちには見せてもらえなかった。個人情報だからって」
魔法使いの言葉に妹も頷く。
「栗原優斗だ。冒険者をやっている」
「私はナタリア・バインズ。よろしくね」
「私はリリアナ・バインズです。よろしくお願いします」
こうしてこれから長く付き合う破目になる彼女たちと出会った。
精霊使いの裁定者 @tyannmagunn
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