第12話 戦闘

リア視点

ううっ、もうお嫁にいけない。

ゴブリンとの戦いのリスクや最悪の場合の想定を一瞬で見抜いたときなんかは心の中で思わず感動していたのに、何が秘策なのよ。


私は今、下着姿にコートを羽織った状態で村に向かって走っている。

あの冒険者、ただの変態かもしれない。

彼が立てた作戦は私の匂いが染みついた服を一定間隔であちこちに配置することだった。

もちろん、彼が見張ることができる範囲だ。

ゴブリン達をこれでしばらくの間足止めし、彼がその間ゴブリン奇襲し続ける。

仮に彼が死んでも、奴らは私の匂いがあちこちにあって時間を稼げる。

本当は服を全部はぎとるつもりだったようだけど、下着だけは守った。

そのあと私の匂いをごまかすために彼のコートを羽織った。


本当にどうしてこんなことになるの。

彼に次、会ったら絶対に許さない。

そうして走って村まで着いた。


そのまま家の中に入るとお母さんは料理をしていてリリがそれを必死に止めていた。


「お姉ちゃん、どうしたのその格好?」

「あら~、大胆ね~」

「お母さん、キングゴブリンが出た」


ガチャンと玄関から音がして振り向くとお父さんが酒瓶を落としていた。


「リア、どうしたんだその格好は。変態に襲われたのか」

「確かに変態っぽい人はいたけど襲われたのはゴブリンで」


お父さんは私の声がまるで聞こえてないようでぶつぶつと何かを言ったのち


「このクソ野郎がああ、どこの馬の骨が俺の可愛い娘に手を出したのはあああ。ぶっ殺してやる」

キレ始める。


「で~、何があったの~」


私もいい加減話が逸れては困るため大きな声で言った。


「だから、キングゴブリンが現れて襲われていたところを冒険者の人に助けられてその人が私の服でゴブリン達を足止めしている間にお父さんたちを連れてこいって言われたの」

「なるほどねぇ~、じゃあ倒しに行きますか~」

「ゴブリンなんてどうでもいい。俺はその変態を殺さなくちゃいけない」

「変態さんはキングゴブリンのところにいるはずよ~」

「そうか、じゃあリア。キングゴブリンのところに案内しろ。変態を殺してやる」

「もうゴブリンじゃなくてその変態さんを殺すことが目的になっているよ。いいの、お姉ちゃん。止めなくて」

「もうめんどくさい」


なるようになれ。


「でも、その変態さんがお姉ちゃんを助けて今お姉ちゃんのために戦っているんでしょ」


そこを突くか。仕方ない、なんとかお父さんを説得しよう。

すると、村の方が騒がしくなる。


「どうした」


村人がお父さんに説明している。


「なんだと、リネット。山火事だ。魔法で消火を頼む。俺は変態を殺りに行く。リア服を着たらすぐに来い」

「分かったわ~。リリちゃんはお手伝いよろしくね~」


山火事って、あの人山の中で火の魔法使ったの?

私は服を着ると感知魔法でキングゴブリンの場所を見つけ、お父さんに事の成り行きを説明しながらまた走るのだった。

今日走ってばっかりじゃない?


数時間前

ふぅー。

さて、仕掛けも用意できた。

ここからさきは狩りの時間だ。

俺は草むらに隠れ、様子を窺う。

今回は1匹か。

なら、静かに殺らないとな。

ゴブリンは俺から数メートル離れた草むらに隠した彼女のズボンにしか目が行っているようで俺に気づかない。

俺も技能スキル『ミュート』で足音を殺して近づくとサッとゴブリンの口を塞ぐと喉元をダガーで切る。

「ゴフッ」

血を吐いてゴブリンは生き絶える。


EXP80


さすがゴブリン、カエルを狩るよりも経験値が多いな。

そのまま、ゴブリンの死体を草むらに隠し、彼女の服を持って次の手下のゴブリンが向かっている進行方向に置く。

そのようにして他の場所でも同様にゴブリンを殺し続ける。

最後に残ったのはキングゴブリンとその周りにいるゴブリン3匹だけとなった。

あの魔法使いの少女が言うにはキングゴブリンは一定の位置にとどまり続け、ゴブリンたちの知らせを待っている。

おかげでこっちは一匹ずつ狩れたが。

キングゴブリンはこちらの動きが分かっているのか2匹のゴブリンに指示している。

今がチャンスだな。

俺は草むらからダガーを指示を受けていないゴブリンに思い切り投げる。

グサッ。上手く頭に刺さる。


EXP86


死んだか。

俺も草むらから飛び出すと驚いて固まっている指示されている2匹のゴブリンを後ろから首を跳ねる。


EXP82

EXP88

レベル25になりました

固有スキル『解放』を会得しました


そのままキングゴブリンの首も跳ねようとしたがかわされ、距離をとられる。

固有スキルが手に入った。

固有スキル『解放』の効果をすばやく確認する。


『解放:自分の持ったものの力を増大させる』

注釈:MPの使用量で増大度は比例する。技量や本人の力が上がるわけではない。


ご丁寧に本人には直接影響しないと明記されてる。

俺の武器は普通の剣で特に何か秘められた力があるわけではないからあまり意味はない。

ということは、俺にこれ以上策はない。

こっからは時間を稼ぐしかない。


「ガアアアアアアアアッ」


キングゴブリンもたいそう怒ってらっしゃるしな。

キングゴブリンは魔法陣を俺に向けてきた。

はあ、魔法が使えるなんて聞いてねぇぞ。


「『アヂン・ファイヤ』」


そのまま、横に飛ぶ。

ファイヤーボールはそのまま俺の後ろの木にぶつかって燃え上がる。

さらにキングゴブリンはファイヤーボールを俺に打ち続ける。

あいにく、ファイヤーボールはそんなに大きいわけではないので俺のスピードなら避けることはできるが。


まずいな、このままじゃ山火事になる。

こいつ全く火の心配をしない。


このまま、時間稼ぎをするつもりだったが、そうはいかなくなった。

早急にこいつを仕留めないと被害が広がる。

MPがなくなったのかゴブリンキングは大きな斧を掴むと向かってくる。


そのまま斧を振りかぶって俺に落とす。

それを剣を使って受け流すが、あまりの重さに十分、受け流すことができなかった。

少し肩を切ったが、俺もカウンターで脇腹を切り裂く。

少ししか刃が通らない。


長期戦になれば、MPも回復する。

MPは時間が経つと回復するのでこっちが不利になる。

その後も受けては流してカウンターを入れるが、やはり流しきれず肩や足、腕に傷が入る。

鍔迫り合いで足払いも入れるが、体制を崩した状態でファイヤーボールを打ってきた。

こいつまだMPがあったのか。


「くっ」

少し左腕が焼けた。

徐々にこちらが押されていく。

技能スキル『加速』を使っているからスピードでは俺が有利だが、スタミナも力もあちらが上。

しかも、こちらは切り合いで体のあちこちが傷ついているがキングゴブリンの方は魔法が打てるほどMPも回復したとなると。

キングゴブリンがファイヤーボールを打つので避けると奴が突進しそのまま俺にタックルをする。


「がはっ」

ボキッと嫌な音がする。

やばい、肋骨が数本折れた。

しかも、受け身の時に右腕も折れた。


俺はまた死の恐怖を感じた。

逃げたい、怖い。

俺は思わず逃げようと足に力が入ったと同時にあの時のことを思い出した。


「ああ、俺はまだ懲りてないのか。あの少女を見殺しにしておいて」


本当にどうしようもない奴だ。

戦わないで逃げたことをあれだけ後悔しておいて。

少女の墓の前で戦わないで逃げることはしないと誓ったはずなのに。

あの娘をまた裏切るのか、ふざけるな。

俺は生き続けてあの少女に謝罪し続けなければいけない。

死んでいいのは存分に苦しんだ後だ。

なら、ここで逃げていいはずないだろ。


「お前なんかに負けるわけにはいかないんだ」


すると、雨が降り始めた。火が消え始める。

これなら、キングゴブリンのファイヤーボールの威力も下がる。

俺は最後に足に力を入れて立ち上がると、キングは俺にファイヤーボールを放つ。


俺はそのままファイヤーボールに突っ込む。

全身が炎で焼けているのが分かるが気にしない。

キングゴブリンも俺が火ダルマになって向かってきて、一瞬驚くが斧を振りかぶって俺に下ろす。

このままではあたる。

片腕は折れているから受け流すことは不可能。

ならば――――――――――――――――――――




俺は技能スキル『加速』を止めた。

俺のスピードが落ちることが目に見えて分かる。

キングの斧は俺に当たらず地面に深く突き刺さる。

俺は再び『加速』を発動させるとキングの胸、魔法使いから教わったゴブリンの心臓めがけて剣を突き刺した。


「ギャアアアアアアアアアァァァァァァァ……………」


そう最後の断末魔を上げるとゴブリンキングは倒れる。


「これで終わりなら、まぁいいんじゃないかな」


俺はそうつぶやくと全身が燃える感覚を味わいながら倒れた。

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