煉と空のある朝
「おはよう」
朝、登校中に声をかけられ、俺は少し驚いた。
「
「
「そうだね、空は少し寝過ぎだよ」
「…………」
「あ、あれ? 空もしかして歩きながら寝てない……? おーい、起きて。さっきまで起きてたよね……?」
「……眠い」
空は欠伸をしながら目を擦り、ぼそりとそう呟くと俺を見た。
何も言わずにしばらく俺を見続ける空。……何だこの沈黙。何か俺今日変なところでもあるのかな。寝癖ついてる?
ん?と首を傾げる。しかし空は何も言わないので、俺も空をじっと見てみた。
俺より淡い色をした青髪、色白な肌。薄く開けた深い黒の瞳。じっと見つめても何考えてるか読み取れない表情。
同じ年だけど、同い年には見えないんだよね。空は大人びてて、ちょっと神秘的。
そんなことをぼんやりと思っていると、空がようやく口を開いた。
「背、いつの間にか大分伸びたね」
「いきなりどうしたの」
「前までは全然おれの方が高かったのに、同じくらいになってる」
「いつの話かな」
くすくすと笑いながら空を見ると、空もくすりと笑った。
空とは割と付き合いが長いが……こうやってのんびりと話すのは久しぶりかな。クラスが違っちゃって、少し話す機会減っちゃったもんなぁ。たまに空のクラス覗いても、空は大抵寝てるし。
「……いつもこんな早い時間に出てるの?」
「朝は教室でのんびりしてたいからね。俺、朝の誰もいない教室から少しずつ人が増えてくの見るの好きなんだ」
「ふぅん。わかんない。絶対寝る」
「……うん、空なら寝るよね」
空は付き合い長いけどいつも寝てるイメージがある。空の日常の半分……いやそれ以上かな、睡眠で出来てると思うんだ。
空らしくて良いんだけどね。
「あ……」
二人で歩いていると、微かにガサガサという音が聞こえた。
この音は、人じゃない。……魔物かな?
ブレザーのポケットに仕込んでいた銃を即座に取り出すと、目の前を空が通った。
音も立てずにヒラリと隠れてた魔物の前に躍り出ると、右手に緑色の光が集まる。空の風力の能力だ。空はそのまま光の刃を魔物に向かって放った。
……綺麗だなぁ。
「他愛ない。ザコ敵だ」
「まあ、このくらいのやつはいつでも湧いて出てくるよね」
ふぅと息を吐く。空はそんな俺の様子を見てコクンと首を傾げた。
「……気にしてんの?」
「え?」
「能力のこと」
「……そりゃまあ、気にもするよ」
皆の綺麗で華やかな力を見てると、羨ましくもなるよ。何もない俺からすればね。
手にしてた銃をしまうと、再び歩き出す。
しばらく黙って歩いていたが、空がまたぼそりと呟いた。
「煉は、特殊な力なんて必要ない。……そのままが良い」
それだけ言うと、空は再び口を閉ざした。
その様子を見て、プッと吹き出してしまった。
「ふふ、ありがとうね」
口下手な空の不器用な励ましが、なんだか少し可笑しかった。
ぶっきらぼうだけど、優しいんだよね。
「そうだ、空、今度また一緒に勉強しようよ。わからないとこあるから教えて欲しいんだ」
「……おれもやりたいと思ってた。おれも煉に聞きたいのあるから、よろしく」
こんな会話をしながら歩いた、ある日の朝。
空はこの時間あんまり会えないけれど、たまにはこんな登校も良いなって、そう思いながら学校に向かった。
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