三年生、はっちゃけ隊

これは今年で卒業の三年生の教室の風景。

「おはよー、今日現代文小テストだよね」

「え? なんか言った?」

「今日現代文……」

「え、今日倦怠感? 俺も俺も」

「マジだるいよね!」

少年諦めるな。諦めたら小テストは最悪の結果になるぞ。

しかしそのまま聞いていると会話はあらぬ方向へ飛んでいってしまった。

「あのさー、課題やった?」

「やってない」

「だよねー」

「うんうん、開いてすらいないぞ、オレ」

「なに! オレなんか持ち帰ってもいないぜ!」

「にょー、お腹すいだから食べちゃったにょー」

「…………美味かった?」

「不味かった」

素っ頓狂な話をしている彼らは、正義のヒーロー隊と呼ばれるグループ。

三年生の中でも特に有名なお馬鹿達。今日もその個性を遺憾なく発揮しているようだ。

「まあ、オレは勉強しなくても出来ちゃうからー?」

「カイ、お前二組だろ!? 帰れ帰れ! シッシッ」

「連れないこと言うなよー! ほら、ケーキやるから」

「はい、大歓迎です!」

これは本当に三年生の教室だろうか。

緊張感も何もない会話に、クスリと笑ってしまう。

あの辺の人達は相変わらず賑やかだなぁ。

俺はぼんやりと眺めながらそんなことを思った。

「おはよう、れん……」

そら、おはよう」

「俺もいるよ」

声をかけてきたのは、いつも眠そうな少年空と、大人しそうな顔をした少年おん

大切な俺の友達だ。

「音、右肩……」

「おっはよー! 皆のアイドルスズだよ! ほら挨拶挨拶!」

「……っち」

「あー、空舌打ちした!」

愛らしい三頭身の姿で登場したのは、随分と可愛げのない毒吐きアイドル(自称)スズ。

空とは馬が合わないみたいで、(特に空が)顔を合わせる度に喧嘩腰になっている。

「ほら、音いるところにボクありって言うでしょ?」

「誰が言ったの、そんなこと」

「ボクだよ」

そんな会話をしていると、廊下から悲鳴に近い(女子の)声が聞こえた。

「きゃぁぁぁ、フウ君今日もイケメン……!」

「目が癒やされたぁ」

「フウ君神様……!」

「こっち向いて〜!!」

「ご、ごめん……ちょっと通して……」

廊下に出来た人だかり。その先にはまさに神様の形と言っても過言ではない超絶イケメンがいる。

「フウだ」

「スズ……今日なんで置いていったの? 今日一緒に登校するって言ったよね」

「おはよう、フウ! すっかり忘れてた」

「酷い……! オレは一時も忘れないで時間ギリギリまでずっと待ってたのに……」

「ごめんごめんって! 許したって!」

この天性の宝物のような見た目をしたフウの中身は、そんじょそこらの女の子より女々しい。

……見た目で性格って、わかんないもんだよね。

俺はふと、窓の外に目をやった。

外ではバスケをしている男子生徒がいた。

あ、隣のクラスの人だ。

あの二人はよくバスケをしているなぁ。

華麗にゴールを決める様は爽やかで格好いい。

他の一緒にやっている人達が目立たないくらいだ。

(あっ……)

氷之ひょうの笠城かさたちって、氷之がボール凍らせなければ凄く格好いいバスケコンビだよね」

俺の視線に気づいた空が眠たげに呟いた。

グランドにはカチコチに凍ったボールと恥ずかしそうに笑う氷之、それを慰める笠城がいた。

「にょーにょー、煉にょーん」

「……!?」

呼ばれて視線を戻すと、そこに空、音、スズ、フウの姿はなく、先程向こうの方にいた正義のヒーロー隊と呼ばれるグループの人達だった。

相変わらず、皆三頭身。スズとはまた違った(スズのはあざといから……)可愛いミニキャラみたいな見た目だ。

声をかけてきたフィッシングという、黒猫の少年がつやつやした目で俺を見ていた

「おは……おは……」

「……? おはよう?」

「おはにょーん! わーい、煉に挨拶してもらったにょーん!」

「うわ、ズルいぞ! 煉! オレには!?」

「お、おはよう」

「僕もー」

「俺も!!」

「おはよう」

俺はなぜか正義のヒーロー隊に慕われている。俺も正義のヒーロー隊可愛がってるんだけどね。

「…………煉、煉」

正義のヒーロー隊の頭をそれぞれ撫でていると、いつの間にか教室のドアの方にいた空と音が俺を手招いた。

「妹さん」

「え、れい?」

慌てて廊下に出ると、妹の麗が俺のお弁当を両手に持って待っていた。

俺の姿を見るととたんに顔をパァッと明るめてふわふわと笑う。

「兄さん、忘れてたよ」

「あ、本当だ、すっかり忘れてた! ごめんね、麗」

「良いんだよ、兄さんが忘れたらこうしていつでも私が届けてあげるからね」

「ありがとう」

「じゃあ、兄さんまた帰りね?」

そう言って麗は名残惜しそうにその場を去った。

「……可愛い妹だよね」

「うん、麗ちゃんは良い子だね」

空と音の言葉に少し照れながら俺は頷いた。

「自慢の妹だよ」

「にょーわー! 騙されちゃ駄目にょ、あれはヤバイ奴にょ」

後ろでフィッシングが喚いてる。

失礼な、麗はれっきとした良い子だ。

「あれだよね、煉も煉でシスコン入ってるよね……」

「妹が妹なだけに……」

「なんか言った?」

「いや、何でもないです……」

ーー♪♪♪

チャイムと同時に勢い良く教室の扉が開いた。

「はいー、お前ら席つけー出席とるぞ。別のクラスのやつさっさと帰れー」

担任の先生が入ってきた瞬間に、皆バラバラと席についた。

「はい、お前らおはよう」


今日も一日が始まる。

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