第二十九話【発表! 合衆国の見解(1番目)】

 なぜ〝核の傘〟という文言にサトーがこだわったか。理由は至極簡単だ。そんな語彙は最初のコメントのどこにも無かったからだ。


 核兵器の存在をチラつかせた恫喝が行われたのであるから、我がアメリカ合衆国は当然それに対抗すべくなんらかの反応を示すべきである。反応はしたのだがその反応に不備があった。

 正直なところをいうと俺は別の案件、要するに国内事情なんだけどな、に囚われ処理を国務省に任せきりにしてしまった。俺が深く考えていなかったというのもある。俺に考えさせなかったというのもある。きっと〝その方がいい〟と誰かが不埒な事をひっそり考えていたのだろう。

 国務省の奴らが中心となり直ちにコメントが作成され発表された。


『北東アジア地域を不安定化させる、関係国のあらゆる言動に合衆国は反対する』だった。


 重要なことなので繰り返してみるぜ。

『北東アジア地域を不安定化させる、関係国のあらゆる言動に合衆国は反対する』だ。


 きっと「どこかで聞いたことがあるような」って思うだろう。そう、ロシア人や中国人の奴らがよく言うんだよ。この手のフレーズは。もちろん我が国の国務省の言ったことなんだけど。このコメントをきっかけに俺のホワイトハウスは真っ二つに割れることになる。互いが互いを罵り、憎しみが交錯する修羅の場になってしまうことになる……。

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