第二十四話【核の傘はあるのか無いのか】

 アメリカで有力紙と思われている新聞各紙及びアメリカ議会が揃って激しい日本バッシングをしたことは直ちに日本政界におけるホットイシューとなった。アメリカ国内の過剰な『核戦争に巻き込まれるぞキャンペーン』は海の向こう日本に飛び火し、遂には『核の傘はあるのか無いのか論争』に繋がってしまった。正直望まない展開だ。だがもはや仕方がない。こうなるとホワイトハウスとしては俺も含め誰であろうと当然日本国内の内政事情がどう転ぶかが気になるところだ。



 [核の傘][安全保障]をテーマに野党は厳しい質問を首相であるサトーに浴びせ、その質問にあやふやな回答をするたびにさらに激しくサトーを攻撃し続けていた。

 まああやふやになるのも当然だな。日本有事、しかも核攻撃が行われた場合にアメリカ合衆国がどう動くか、日本の首相に答えられるわけがない。それを答えられる者がいるとすれば合衆国大統領である俺しかいない。

 答えを答えられない者に質問を浴びせているのだ。だがこの攻撃の効果はてき面で日本の世論調査によると内閣支持率は急降下し俺の支持率を遙かに下回るほどになったという。日本では長期政権が続いていて久々に政権をひっくり返せるネタとばかりに野党ともどもメディアがはしゃいでいるようだった。

 センセーショナルに煽るのがジャーナリズムの悪い癖で、アメリカも日本も良い勝負だな。こういう習性に国境は無いもんだ。

【アメリカの〝核の傘〟機能不全】

 さらに過激に、

【アメリカの〝核の傘〟消滅も】などと『報道』が繰り返される。新聞も新聞だが、特にテレビの悪影響が看過できないものになっていた。


 事態は思わぬ副作用を生み、大韓民国大統領、台湾総統からと相次いでホワイトハウスに電話が掛かってきた。もちろん[核の傘]についての問い合わせだ。俺としてはサトーにしたのと同じ説明をする他ない。

 それが報じられるや、アメリカ国内の日本バッシングはさらに激しさを増した。この場合叩くべきは韓国や台湾だと思うのだが。とにかく事態を収拾しなければならないのは誰の目にも明らかだった。〝新たなる声明〟を発表するかしないかでホワイトハウスは揉めに揉めた。


 俺に確実に言えることは、俺もサトーもマスコミを何とかしなければならないってことだ。でないと事態は確実により悪化するってことだ。ところがこのホワイトハウス——いやワシントンと言った方がいいのか——には日本側にのみ事態収拾の責任があると考える連中は少なくなかった。

 俺のカンだがそうした人間が少なく見積もってもここワシントンに半分以上いるんじゃないか? そいつらがメディアの造り出す世論を後ろ盾にさらに事態を悪い方向に動かす疫病神となった。

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