第二十三話【特使を送れ! ガイアツかけろ!】
と、ここで時を少しだけ遡る。
アメリカの主要新聞の『核戦争を誘発する日本!』という日本バッシングキャンペーンは遂に下院における対日非難決議を緊急採択させるといった事態まで引き起こしていた。国民は〝核戦争に巻き込まれる!〟といった恐怖という激情に支配さつつあった。ホワイトハウスは外交政策を根本から考えざるを得なくなっていた。俺のストレスは相当なものだ。
急遽、四人の人間が集められ、日本に特使として派遣されることとなった。〝北東アジアの緊張緩和〟を名目として。
このうち三人はいわゆる〝知日派〟と言われる、ワシントンのその辺のシンクタンクに籍を置く奴ら。もう一人は上院議員だ。まあこの使節に権威を持たせるために同行するというわけだな。この特使の実の目的は露骨なものだった。〝日本に対し領土に対する問題をこれ以上語るのを止めさせる〟これが目的だった。もちろん公然と掲げるバカもいないが。
俺はこの上院議員の人選を巡ってさえもホワイトハウス内で仲間割れが起こったことに嫌気がさしている。
「日系人を派遣して良いか?」について唐突に議論が始まった。しかも議会の中にまで火がついてさらに騒ぎが大きくなった。それでもこの俺が敢えて思いやりのある解釈を加えてやるとするなら、核攻撃の恐怖は誰彼の人心をも恐慌状態に陥れていた、と言うほかない。
それで結局どうなったか? 日系人じゃない上院議員が派遣されることになった。こうした騒ぎを目の当たりにした日系の老上院議員が自ら辞退してしまったからだ。もうこの一事で日本側に何を伝えに行く使節か察しがつくってもんだ。マスコミの論調の上に乗った『日本が自制すべき論』が事実上の合衆国の要求となったのだ。
ただ〝日本が自制すべき論〟をホワイトハウスの人間の口から発するわけにはいかない。内々に日本側に合衆国の真意を伝え、あくまで日本自らの判断で行動を改めるという形をとるということが重要だった。そういう意味では〝特使〟と言うよりは〝密使〟に近かった。
とにもかくにも世論に迎合し政治が行われた。
まあ俺の立場で〝迎合〟と言っちゃマズイのかね。一応民主主義ってヤツだし。
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