第十八話【切羽詰まってる直通電話】

 結局出来上がったものは、

 『北朝鮮に対し、合衆国は核を含むあらゆる手段で反撃する。また合衆国は北東アジア地域の緊張を高めるあらゆる国のあらゆる言動を支持しない』という声明だったのだが、言い訳になるかもしれないがこんなものでも俺たちはその当時最善の努力をしたのだ。ホワイトハウスの中の空気を相当悪いものにしてまでも、な。

 なぜその努力できたかと言えばあまりにもサトーの電話が切羽詰まって鬼気迫っておりさすがに無視するのが不可能となっていたからだ。



 あの時再びサトーから電話が掛かってきていた。この案件については確か二度目だった。開口一番まずサトーは日本に派遣された特使四人の労をねぎらった。

『おかげでアメリカ国内の状況が把握できました』とさ。なにか嫌味にも聞こえるが。

『大統領、あなたの国ではこの件を〝日本の領土問題だ〟として関わるのを忌避し、逆に日本を憎悪するかのような論調を煽る勢力があります。しかしこれは誤解です。我々はあくまで軍事力を使わない方法で事に当たっているのです。我々は核危機など望んではいません。しかし相手国側は日本とは違います。核兵器の存在をチラつかせるのです』


 サトーはロシア及び中国国内で、

 [核兵器を使って日本を恫喝すれば日本を外交的に屈服させることができる]との世論が主流派になりつつある事に懸念を示した。事実ロシア人や中国人達が本音を爆発させているインターネットの中はそういう事になっている、との情報は俺にところにも入っていた。

 サトーの訴えはこの俺からしても悲壮感が漂っていた。サトーは言った。

『核兵器を持っていない国は核兵器を持った国の脅威からどう国を護ればいいんです?』

 それは日本の或る記者を詰問したのと同じことばだった。

 奴の問いに何と答え、国としてどう応えればいいのか?


 その一方でアメリカ国内の世論がどうしても無視できなくなっていた。

 俺はこの時ハッキリとした明確な返事ができなかった。あるいはこの対応が奴をして疑心暗鬼を呼び起こし、後々から考えればであるが『非核保有国に対し核兵器を使った国に対する核攻撃を支持する』という重大提案に繋がったのかもしれない。


 この電話の要件は合衆国の声明について、もう一段踏み込んだ表現をとれないものだろうか、というものだった。

 まぁ、その要請で出来たシロモノが、

 『北朝鮮に対し、合衆国は核を含むあらゆる手段で反撃する。また合衆国は北東アジア地域の緊張を高めるあらゆる国のあらゆる言動を支持しない』だったのだが、

 これ以前はこれ以下だったってことだ。


 しかしこれらの事件を通してだが、日本の首相のイメージって変わったのか、とそう思わざるを得ない。

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