第十五話【おとなしい日本】
『アメリカの核の傘に言及した日本の言動が地域を不安定に陥れるのだ』という、中国とロシアがタッグを組んで喧伝するこの言動のオリジナルは、実は中国とロシアの奴らではない。最初奴らは『日本との領土問題と核兵器をリンクさせた言動』を展開させていたくせに微妙に軌道修正してきたのだ。
ロシア人と中国人しか言ってない言い分だったら国際世論の主流になどなるわけがないからな。
言いだしたのは他ならぬ俺の国のマスコミだ。裏から中国やロシアにでも工作されたのかと疑いたくもなる。
だってそうだろ? 論理的に考えてみろ。
本来核戦争とは核兵器という兵器が無ければ成り立たない。ならば〝反核戦争〟を訴えるなら核保有国が非難の対象となると考えるのが普通である。核兵器を恫喝に使う核保有国こそ悪だろう。が、あに図らんや。
ウチの国のマスコミは斜め上に突進し非核保有国日本を叩いていた。
日本の首相サトーは沈黙したままだった。日本の首相などアメリカメディア総出の『反・核戦争キャンペーン』という対日報道攻撃の前には敗北するしかないということなのか。
恐るべしはネガティブキャンペーンという手法の力だ。これの効果の絶大性は大統領選挙を通じ俺も間近で見てきた。
このメディアが醸成する世論に選挙間近の下院議員どもが飛びついた。対日非難キャンペーンに血道を上げ始めた。
とは言えこのバッシングにはそれなりに〝もっともらしい理由〟もあった。
『北朝鮮非難声明に対する感謝の声が日本から無い』というのがその理由だ。これを問題として掲げ、日本バッシングに熱狂し、どんどんエスカレートさせていく。
日本ではこの『日本バッシング』を『政権バッシング』にすり替えた野党までが執拗に首相を攻撃していた。明らかにガイアツを使った便乗だな。
アメリカメディアからすれば日本攻撃にまったくなんのリスクも無い状況が続いている。
こいつはもう……止めようがない。
核兵器を持った怖い怖いヤツは叩けないが武器を持たないヤツならいくらでも叩けるということかね。ずいぶんとカッコ悪い人間が増えたもんだ。こういう事を口にすると口さがない連中がアメリカンマッチョと俺のことを言うが、俺の方が人間として遙かにマシだろ。
さて、なぜ「北朝鮮非難声明に対する感謝の声が日本から無い」のだろうか?
日本の政府の中の連中は一応感謝しているが、政府外の政治家及び一般日本国民的には実はそれほど感謝されていなかったりする。
理由は簡単。文字通り〝北朝鮮しか非難していない〟からだ。同じようなことをする他の国々に対する非難が省かれていたからだ。
◇
それはどういう声明だったのだろうか?
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