第十三話【意外な伏兵】

 キング海軍大将。来るはずのない来客。この男がわざわざ大統領執務室にまでやって来てジョンストン大統領に説教を食らわせたのには理由があった。と、ここで時を少しだけ遡る。



        ◇

 アメリカの政治家ってのは意外に北朝鮮に騙されやすい。今まで何度騙されたか分からない。過去何人かの大統領もやられたし、国務長官もやられた。これを言われて怒るってのは図星を突かれたから怒るんだろうな。現実にテロ支援国家指定も解除してしまったし。俺が何を言いたいかといえば、北朝鮮とはアメリカにとって意外にやっかいな敵だってことだ。天敵と言っていい。コイツらが細かいネチネチした嫌がらせを始めやがった。


 俺達ホワイトハウスは北朝鮮を名指しした上で非難声明を出していた。その声明の中に以下のような部分がある。

 『合衆国は核を含むあらゆる手段で反撃する』。


 北朝鮮の奴ら、これについてチクチクと細かく文法的解釈を加えてきやがった。どうやら腹を立てたらしい。

 北朝鮮曰く、

『我々がアメリカ以外の第三国に核兵器を使っても我々に対し必ずしも核兵器は使われない』。

 なんてこった!


 確かに「核を絶対に使う」とはこの文言では読めない。あらゆる手段を使ってなお事態を打開できない場合に初めて核を使う、と読めるだけだ。


 北朝鮮がどこかの国を核攻撃したとしても……北朝鮮………通常兵器だけで瓦解してしまいそうじゃないか。イラクみたいに。政権だけを倒壊させるのは簡単そうだ。その後の事は知らないが。その場合、北朝鮮という国家に対しては核は使われない……。


 信じられん! アイツら自分の弱さを逆手に取ってきやがった! 完全に合衆国国内の『反・核戦争キャンペーン』というマスコミの論調とそれを支持する世論とを見透かして行動している。

 俺はこれを聞いたとき多分顔色を失った。これはマズいことになった。ロシアと中国のお間抜けなコンビよりよほど合衆国に脅威を与えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る