第十一話【報復核攻撃を支持する】

 アメリカ合衆国大統領、この人間をある意味ここまで追い詰めたものはなんだったのか? と、またここで時を少しだけ遡る。



        ◇

 海軍大将の予測通り揺さぶりはかけられた。俺が日本政府からの国際電話に出るなり首相のサトーはこう言ったのだった。

『どの非核保有国であろうと、核保有国から核兵器による攻撃を受けた場合、別の核保有国が核兵器を使用した当該核保有国へ核攻撃することを日本は支持する』


 え? なんだって?

 俺は確認した。


「ずいぶんと難解な言い回しだったが、日本政府は、日本以外の国が核攻撃を受けた場合でも合衆国による報復核攻撃を支持するという立場になる、という意味か?」

『その通りです』サトーは言った。

「念のために訊きたい」

『なんでしょう?』

「それはあなたの個人的な思いつきではないのだな?」

『これを閣議決定し日本政府の方針に確実にします』

 俺の方に冷や汗が流れた。しかしこれはまだ始まりだった。

『大統領、これは密談ではありません。今の会話の内容はそちらで発表されても構いません。私自身、今お話ししたことを記者会見場で発表するつもりです』


 なんだと⁉


 通話は終了した。

 サトーは相当追い詰められている。北朝鮮だけならたいしたことはなかっただろう。ロシア、中国、そして合衆国のマスコミと議会、挙げ句の果てにホワイトハウスにまで追い込まれている。その結果がこの決断とは言え、俺には震えが来ていた。アメリカ合衆国そのものが奴に試されている。おそらく奴はこちら側の態度を見極めた上でさらに次の一手を打ってくる。合衆国は何らかの立場の表明をする必要が出てきてしまった。この俺にも腹をくくる時が来てしまったということだ。


 ホワイトハウス一同はサトーのメッセージに顔色を失った。しかしいつまでも立ちながら気を失っている場合ではなかった。どう対応するかを早急にまとめなくてはならない。まさかこういう攻撃で来るとは思いもよらなかったのだ。


 サトーは俺の知る限りここまで言えるような政治家じゃない。これはサトーが安全保障問題で追い詰められた結果なのだ。

 そして——俺も同じように追い詰められていた。来るはずのない来客がホワイトハウスにやって来たんだ。

        ◇




 合衆国大統領を追い詰めた来るはずのない来客とは誰なのだろうか?

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