第九話【口笛(ジョンストン大統領の武勇伝その1)】
時にサトーはなぜあのような、マスコミ連中にケンカを売りつけるような記者会見をしていたのか? そしてジョンストン大統領の武勇伝とは? と、ここで時を少しだけ遡る。
◇
ピィィィィィ。
俺の吹く口笛が記者会見場に響き渡る。サトー首相からのホットライン、それにどう対応するかを明らかにする記者会見だった。既に数日前にはサトーから事態収拾のために或る重大な提案を電話で受けていた——という〝事実〟だけは記事になっていた。
提案の中身はこの時点で「不明」のままだった。今からその事実の中身についての記者会見を行う予定になっていた。
ピピィピュウゥゥゥゥゥ。
なかなかあの音の再現は難しい。
だが目の前の奴らは早速気づいたようだ。カンだけは冴えてるな。このケトルヤローどもめ。
おっ? 目をつり上げてやがるか。お前たちの大嫌いな奴らと同じだぜその顔は。各々が銘々に大声を出し始めた。記者会見場は現在進行形で修羅場と化しつつある。もはや大統領と記者の間の信頼関係など失われている。いや、俺に限って、このジョンストン大統領との間には最初からそんなものは無かったのだ。奴ら反大統領派の議員どもとツルんで仕掛けてきてるのは確実だ。
見てろサトー。お前は生真面目すぎてつまらなさすぎる。この俺のアメリカンジョークを絡めた渾身の挑発を見ておけ、インターネット動画でな。俺がこいつらを木っ端微塵に吹き飛ばしてやるところを見ておけ。ジョンストン大統領の怖さをな。
怒号と罵声が交錯する中、議事進行役がようやく場をなだめ、記者連中の殺気がなお場を支配する中、喧噪は表面上治まりつつあった。しかしもの凄く険悪な空気だ。
一人の記者が指名された。お馴染み全米四大紙のうちのひとつに所属する記者だった。最初の血祭り相手は貴様か。
「大統領、あの口笛は我々を沸騰した湯の入ったヤカンに例えたのでしょうか?」
とてもバカな質問だ。それでもプロのジャーナリストかね? 出身大学はどこかね? と言いたいところだがそこは我慢した。
「実に鋭いカンだ」
私は言った。笑い声は場内からは漏れなかった。殺気濃度がさっきより増したような気がする。
「あなたには大統領としての品位がありません」
記者のヤローが言い放った。
「私に品位が無いのは私があなた方と同様平均的人間だからです」そう言い返してやった。
またしても場内からは笑い声は漏れなかった。
記者は顔を真っ赤にし始めた。血圧が上がっているのが目視で分かる。殺気がぐるぐる奴の頭頂部を渦巻いているのを感じる。くれぐれもこんなところで死体になるなよ。後味が悪いからな。どうだサトー。お前のやり方は威圧的なだけでウィットに富んでいない。
「大統領、あなたとつまらないコントをやっている暇はない。我々のアメリカを核戦争に引き込もうとしている日本のサトーに圧力を掛けて黙らせるどころか、あなたはサトーの発言を容認し後押ししているかのようにさえ見える。我々が日本に要求するべきは核戦争を煽るような発言を止めさせる事だし、まして我々の返事次第では日本も核武装をするぞと臭わせる姑息なブラフについても黙らせるべきだ。日本が国際社会に、世界に、核の脅威を与えている事を看過するべきではない!」記者は言い放った。
「煽っているのは北朝鮮であり、ロシアであり中国だ」俺は言った。
場はかろうじて静まりかえったまま。
続けて俺は言う。
「プライムミニスター・サトーの口に絆創膏を貼るつもりは無い」
ここで一旦は抑えられていた場の静寂が破られ大爆発を起こした。
またまた怒号と罵声が圧倒的な音量で交錯する。が、どういう訳か俺の肝は据わっている。貴様ら、この俺は合衆国大統領ジョンストンだぞ。プレジデントだぞ。俺の怖さを今から貴様らに思い知らせてやる。
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