第17話 入院十七日目「思い出のマーニー展」

 今日は院外外出の日。母の職場の近くの庶民的なお寿司屋さんでお寿司を食べる。母はひもきゅう巻きが好きで、私はネギトロ巻きが好きなのだが、どちらもそんなに高いメニューではないので、回らないお寿司でも安心して頼むことができる。


(回らない寿司の場合、銀座以外のお寿司屋さんで、ランチで、ちゃんと値段が書いてある明朗会計なところに限る)


生ものは院内の病院食では出ないので、それも含め、存分に外の空気を味わう。

ちょっぴりだけれどお酒までいただいちゃいましたよ。

(ビールグラス半分だけ)

仕事に戻る母と別れ、どうしようか迷ったが、前から気になっていた「思い出のマーニー×種田陽平」展を一人で見に行くことに決めた。両国の江戸東京博物館でやっている催し物だ。


障害者手帳があれば、通常の展示もイベント展示も無料で見ることができるのは大変、ありがたい限りである。

思い出のマーニーは、私が涙をこぼしてしまった唯一無二のジブリ作品でもあって、すごく思い入れがある。

もしかしたらジブリの中では比較的評価が低いのかもしれないが、主人公の女の子のアンナが自分にそっくりでどっぷり感情移入してしまった。


精神的なものからくる喘息を抱えた少女。

(あー、私も保健室登校してた時よく過呼吸起こしてたなあ)

その子はジブリには珍しく自分のことが大嫌いなタイプの女の子で、そこのところも自分とだぶるところではある。 


自信がないくせに、プライドは高くて、周りの優しさや気遣いを無下にする無意識の高慢さがとっても……昔の私だ。

私の持論ですが、もしあなたが回りのことをバカばっかりだと思っているのなら……バカなのはあなたの方かもしれませんよ?

と、いうかその確率が非常に高いですよ。

だって、馬鹿が出来るのは大人の証拠だから。

大人は、人を和ませ、人を笑わせ、人のことを思いやるからこそ……馬鹿になれるのだ。

自分を落とすことが出来て初めて大人。

恥をかくまいとやたら格好つけたり、そういう大人の気遣いに気づきすらしないうちはどんなに年をとっていても、その人は子供だ。

多少偉そうだけれど、そんな風に思う。

私も子供なところがたくさんある。

思い出のマーニーは自分の中の子供ポイントを抉り出してくるので、私にとってはそれが快感ではあるのだが、見る人によってはただただ不快な思いをさせる拷問のような映画に仕上がっていると思う。

誰だって、鏡を見るのは怖いものだよね。

話が思い出のマーニーのレビューみたいになっているので軌道修正するけれど、マーニー展の展示はとても面白かった。

マーニーの家の模型があったり、実寸大のサイロの中に入ることが出来たり。

あと、借りぐらしのアリエッティも展示物の内容に入っていて、小人だったら人間が使っている道具をどう工夫して使うか考え抜かれた(たとえば、人間にとってのまち針が小人にとって剣になるとか)そんなアイデアを詰め込んだ展示が非常に興味深かった。

こんなん一つ一つ考えるの大変だろうけどそれ以上に面白そうだなあ。

他には種田さんが手がけた映画や美術などの紹介もさらりとされていた。

種田さんは映画スワロウテイルの美術監督もされていたそうだ。

スワロウテイルは映像や効果が本当に美しかったので印象に残ってる(ストーリーもいいんだけれどね)私は監督はともかく美術監督をいちいちチェックしたりしないもので思い出のマーニーの美術監督さんが借りぐらしのアリエッティやスワロウテイルも手掛けていることはこの展示に来て初めて知った。

……今度から印象的な映画に出会ったら美術監督もチェックしておこうかなあ。

そんなことを考えるくらいに、感動してしまった。

とても充実した院外外出時間を終え、閉鎖病棟に戻ると、優香ちゃんが出迎えてくれる。

「おかえりなさーい、真世さん」

「ただいまー」

不思議なもので看護師さんたちに「おかえりなさい」と言われると「ここが家じゃねえし」などと、かわいくないことを思うのだが、優香ちゃんみたいにかわいい中学生の女の子に言われると無条件に頬が緩んでしまう。

(とはいえ、ロリとかレズとかそういう趣味嗜好は私にはないけれども)

「真世さん、今大丈夫ですか? 実は、ある計画があるんですが……」

ん?

計画?

「けいかく?」

「そうです」

優香ちゃんは胸を張ってなんだかうれしそうだ。

「素敵な計画があるんです!」

……なんだろう。

嫌な予感がしてしまう……ぞ。


今日の夕食

肉団子の甘酢あんかけ、ゆでブロッコリー、レタスとパプリカのサラダ、中華卵スープ


今日の処方

昨日と同じ

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